塾長は、私がすくっているのをチェックしては「また傾いてるよ!」「その動きじゃ逃げちゃう」「集中して!」と、金魚の特性などを交えてアドバイスをしてくれる。そのたびに考えることが増えて、あっちこっちに意識が飛んでしまう。
それでも何度もトライするうち、だんだんと手が水に馴染み、身体に動きが慣れてきた。塾長からも褒められることが増え、ポイが破れるまでにすくえる金魚の数も確実に増えている。「素直だから、上達がはやい」と褒められて、大会出たら意外といいところまでいくんじゃないか、などと調子に乗り始めたときだ。
「じゃあ、3分やってみようか」
そうだ、大会や検定では3分間という時間のなかですくえる数が重要になってくる。破れないように、そろりそろりとすくっているだけでは勝てない。ポイを破らない程度に積極的に自分から金魚をすくいにいかなければ記録は伸ばせないのだ。
行方市民の団結のために作られた盆踊り曲『行方音頭』が流れると、途端にリズム感が保てなくなり気が散ってしまう。それに加えて「1分経過! 2分経過! あと30秒!」の掛け声にかなり焦らされる。
「3、2、1、終了!」
ふう、と息を吐き出しお椀を覗くと、ずいぶん少ない。11匹。なんとかギリギリ、予選通過だ。
隣で一緒にすくっていた塾長は、なんと67匹! 私の6倍の速さで金魚をすくっていたことになる。大会ではひとつの水槽で4人が金魚をすくう。複数人で一緒にすくうと水圧や波も変わるし、金魚も奪い合いになる。ひとりで練習しているのと大会とでは、まったく違う競技だ。
「もう一度、3分お願いします!」
自主練習を挟んでは、塾長に頼んで『行方音頭』をかけてもらう。19匹、27匹、28匹……と、上達が見えてくるほど「もっと、すくいたい!」という気持ちが増してくる。
もう少しで30匹だ。金魚すくい塾で行われる「なめきん昇級・昇段試験」では、31匹以上で初段が取得できる。私のなかで「段を取って帰る」というのが、小さな目標となっていった。
塾長が7月のランキングを見て、一言呟くまでは。
未知の細道の旅に出かけよう!
「金魚すくい塾」で猛特訓 旅プラン
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