いよいよ入塾。練習コースは1回、つまりポイ1枚で100円だ。回数が増えるほどお得になるので、私は10回500円を選んだ。上手な人だと、この500円で1日中金魚すくいをしているという。
「最初の1枚は、自分の力でやってみよう」
実は取材前に、大河さんが Youtube にあげている動画で予習してきた。最近は娘さんのアドバイスでTik Tokにも動画を投稿し、4,000人以上のフォロワーがいるそうだ。音楽に合わせて真っ赤な金魚が泳ぐ様は、たしかにきれいだった。
動画の動きを思い出して、見よう見まねで金魚を追う。水中に手を入れていると、意外なことに金魚がドクターフィッシュのように手をつついてきて、くすぐったい。
「連日の金魚すくい練習で少し人に慣れてきてるかな。慣れすぎると簡単にすくえちゃうから、餌はあまりあげないようにしてるんだけどね。でも慣れていない金魚は、とてもすくえないよ」
他の動物と同じように、金魚にも「人に慣れる」ということがあるのに驚きつつ、金魚すくい屋さんの難しさを感じた。すくいやすすぎず、すくいにくすぎず、いい塩梅にしておかなければいけないのだ。
さらに驚いたのは、ポイが想像以上に破けにくいこと。
「ポイにも号数があるんだ。4号が一番丈夫で、保育園や老人ホームで使うもの。5号は一般的な大会で使われるもの。6号は祭りで金魚すくいをしている業者さんが使う薄いもので、僕でも2、3匹しかすくえない。7号は水に入れただけで破れちゃう。KIN-1グランプリでは4号を使って勝負する。すくえなきゃ、おもしろくないからね」
屋台の金魚すくいが難しい理由がひとつわかった。たしかに、このポイでは、少し金魚が乗ったくらいでは破けない。制限時間を設けなければ、いくらでもすくえそう。そう思った矢先に、大きな穴が開いた。お椀には、なんと22匹もの金魚たち。
「すくえなきゃ、おもしろくない」
大河さんは何度もそう言ったけれど、少しすくえると本当に楽しくなってくる。もっとすくいたい、もっと上達したい、という気持ちが湧いてきて、塾長の指導をお願いした。