未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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3分間ですくってすくってすくいまくれ! 「金魚すくい塾」で猛特訓

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.143 |9 August 2019
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#7市長の記録を超えられるか

毎月掲示されるランキング。上位者には、とても敵いそうにない。

「市長の記録は、41匹だな」

塾内に掲示された「今月のランキング」を見て、大河さんが言った。私は自主練習をしながらその言葉を聞き、「入塾初日で行方市長を超えたら、かっこいいな」と考えていた。

まだ30匹の壁を超えられずに苦しんでいる私が、10匹以上も記録を伸ばすのは難しいように思えたが、勢いよく塾長に「市長を超えたいです」と宣言した。大河さんは、無理だと笑うこともなく「いけるよ、がんばれ!」と、さらに指導してくれた。

そして練習コースの、ラストポイ。最後の3分で私の金魚すくいの腕は思わぬ飛躍を見せた。なんと、市長の記録にあと1匹まで迫る40匹を記録したのだ。大河さんがランキングに私の名前を書き入れる。これは、もしかしたら本当に行方市長を超えてしまうかもしれない。

行方市長の記録まで、あと一匹!

練習コースを終え、ついに検定試験。300円を支払うと、大会同様に5本のポイが手渡される。光に透かして、和紙の繊維を見る。私は金魚が横向きのときにすくうことが多いので、自分に向かって垂直に繊維が入っているものを選んだ。

狙うは市長の記録41匹。それを超えると3段取得となり、大きな缶バッチがもらえる。

「よーい、スタート!」

大河さんが見守るなか、水面に斜めからポイを差し込み、水中で並行にする。金魚の下へゆっくりと滑らせ持ち上げ、金魚を乗せたまま水面を移動、水を切ってお椀へ。最初は落ち着いていたのに、焦りからか徐々に動きが荒くなってくるのが自分でもわかる。

お椀に勢いよく金魚を入れるときにピチャンと音がしていた。水をよく切らずにお椀に入れている証拠だと、練習時から大河さんには言われていた。水ごとすくうと、ポイにかかる重みが増すのと、お椀自体が沈んでいってしまうリスクがあるのだ。頭ではわかっていても、すくうことで精一杯の私には気にする余裕がなかった。

そして最後のカウントダウン。追い上げに何匹もの金魚をすくったとき、横目でお椀から逃げ出す金魚が見えた。「あ!」と声をあげたけれど、もう遅い。水の重みで沈んだお椀から、数匹の金魚が出てしまったのだ。

「終了!」

大河さんがお椀の中の金魚を数える。

「39匹」

市長の記録には、あと一歩のところで届かなかった。最後に逃した数匹が悔やまれるが、これも実力のうち。金魚すくいの町、行方市の市長を超えるには、まだやはり練習と経験が足りないのだ。

検定2段の証である、メス金魚のキャラクター「なめきん」の小さい缶バッチを大河さんが渡してくれた。3段以上でもらえる大きな缶バッチは、次回手に入れようと決意する。

「みんな、段取得者じゃないともらえないピンクの缶バッチが欲しいんだよ。たいしたもんだ、よくがんばった!」

昇段昇級試験ですくった数によって、もらえる缶バッジが変わってくる。集めたくなる。

まだたったの3時間の師弟関係なのに、塾長に褒められ誇らしい気分になる。次は大会に出てみたい。「金魚すくい塾」に入塾する前には、想像もしなかった考えが浮かんだ。

「金魚すくいはスポーツだ」

ふやけた手と、疲れ切った頭と、少し筋肉痛になり始めた背中。大河さんが言っていたことが、今ならわかる。子どもから大人までが夢中になれる金魚すくいは、何度でも挑戦したくなる不思議な競技だった。次は友達や家族を連れて、みんなで競い合いたい。みんな金魚すくいの魅力に取り憑かれ、ヘトヘトになるまですくい続けるにちがいない。

  • この体勢で必死に金魚を追い、翌日は全身が筋肉痛になった。
  • 猛特訓で破れていったポイが並ぶ。

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

「金魚すくい塾」で猛特訓 旅プラン

最寄りのICから【E6】常磐自動車道「土浦北IC」を下車
1日目
「天然屋」 で金魚すくい塾に入塾、思う存分、金魚すくいを楽しもう。すくうのが上手になれば数枚のポイで何時間もすくえる。塾長の大河さんに大技を見せてもらったり、金魚すくいのコツや豆知識を教えてもらうのも楽しい。金魚すくいの他にも本物の船を水槽代わりにした「タナゴ釣り堀船」もある。
2日目
「天然屋」のすぐ近くにある「霞ヶ浦ふれあいランド」 へ。「水」をテーマにした施設には、わかりやすく水について学べる場所がたくさん。親水公園のなかの「ざぶざぶけいりゅう」は、小さい子どもでも思いっきり水で遊べるので、水着やレジャーシートを持って泳ぎにいこう!

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。