未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
139

8mmフィルムが持つ、生きる力

安曇野発!「地域映画」

文= 松本美枝子
写真= 舘かほる(表示のないもの全て)
未知の細道 No.139 |10 June 2019
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#5地産地消の「地域映画」

アルプスピクチャーズ代表 三好大輔さん

フィルム提供者たちに会った後、仕事がひと段落した大輔さんと会うことになった。この日も遠く茨城県は笠間市の人たちが、アルプスピクチャーズに「地域映画」をつくるための打ち合わせに来ていたのだ。
大輔さんは「よみがえる安曇野」を作った後、大分の竹田市でも「地域映画」を作るなど、このプロジェクトを全国に広げている。

「各地の自治体や地域おこし協力隊と一緒に、その町の『地域映画』を作ることが多いです」と大輔さんは言う。
もともと「よみがえる安曇野1」も安曇野市制10周年記念に公募された事業枠に応募し、見事勝ち取ったことからはじまったプロジェクトだった。市の文化課の強力なバックアップもあり、「よみがえる安曇野1」は無事に完成し、大好評を博した。そしてすぐにまた第2弾の「よみがえる安曇野2」の制作へと続いたのだという。

安曇野へ移住する前から、東京藝術大学の非常勤講師をしながら、映像作家として活動していた大輔さんは、大学と共同で墨田区や足立区で一般市民が撮影した8ミリフィルムを集めては、今と同じような映画を作っていた。周りの誰も、このような手法で映画を作ってはいなかったが、その頃はまだ、自分自身でも自分が作った作品を、何と名付けたらいいのか、わからなかった。

「素人の他人が撮った古い8ミリを素材として映画を作る」というのも大輔さんのこだわりがあった。テレビのコマーシャルやミュージックビデオを仕事で作っていた大輔さんだが、ある時、友人の結婚式のビデオ制作を頼まれたことがあった。
「こんなものもあるから、見てみて」と友人から渡された8ミリフィルムには、その父親が写した子ども時代の友人が写っていた。
大輔さんはそのフィルムを見て、心が動かされてしまったのである。その父が子どもに向けるまなざしや気持ちがまるで自分のことのように伝わってきた。思いがけず「泣いてしまった」という大輔さんは、「この感覚は一体なんなのだろう?」と考えるようになった。自分のこの思いを他の人にも知ってほしい、そんな気持ちで、古い8ミリを素材にした映画を作り続けてきた。

安曇野に越してから、自分への問いかけは、ますます深まった。
そして「その地域の人たちが撮った映像や、演奏した音楽だけを集めて、映画をつくる。それをその土地で回していくための映画にする。つまりこれは地産地消の映画だ……」そんな方法論が明確になっていった。そして「よみがえる安曇野」に「地域映画」という新たなジャンルを名付けたのであった。

現在では「よみがえる安曇野」は、なんと市のふるさと納税の返礼品として採択されているのだという。「地産地消」映画として、なんとも、ぴったりの使い道ではないだろうか。

さて地域映画「よみがえる安曇野」は、安曇野に旅して、見ることもできる。安曇野市中央図書館ではカウンターで利用者申し込みをすれば、DVDを閲覧することが可能だ。また穂高神社の駐車場側にある「よろづや いっかく」では、地元の食べ物などとともに「よみがえる安曇野」のDVDを販売している。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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