ある日の夕刻、僕はスマホでグーグルマップを眺めていた。特に地図が好きなわけじゃない。正直に告白すれば、企画に行き詰っていた。取材したいこと、会いたい人はたくさんいるんだけど、どうにも時期やタイミングが合わない。これだ! と思ったイカに関する企画も、イカの記録的な不漁というどうしようもない理由で諦めざるを得なかった。
それで、どうしようかな~と東北あたりの地図をボーっと見ていたら、見慣れない湖があった。ぐーっとフォーカスすると、小川原湖とある。微かに聞き覚えがあって「小川原湖」とググってみたら、昨年、青森県三沢に駐留する米軍の飛行機が、訓練飛行中に小川原湖にタンクを投棄したことがニュースになっていた。僕はそのニュースを見たのだ。
さらに小川原湖について検索を進めると、日本で11番目に大きいこの湖が、地元では「宝湖」といわれていることがわかった。しじみ、なまず、ふな、鯉、川カレイ、天然うなぎや「日本の上海蟹」とも言われるモクズガニなど30種類以上の魚介類が生息していて、まさに宝庫ならぬ宝湖。白魚とワカサギは日本一の漁獲量を誇り、そのなかでも白魚の水揚げ量は年間700トン、全国の漁獲量の70%を占める。
この時点でも僕の感想は「へー」という程度だったけど、白魚と素魚の違いを知って興味を持った。かつて隅田川でも採れた白魚は、江戸時代には徳川家康にも献上されていた高級魚で、現在は料亭などで提供されている。網にかかって水揚げされるとすぐに死んでしまうほど繊細ということもあって、700トンもあるのに市場にはほとんど出回らない。なるほど、普段はほとんど口にできない幻の魚なのだ。さらに、日本で唯一、白魚の踊り食いができる場所があると書かれた記事を読んで、一気にテンションが上がった。
どうやって繊細な白魚を踊り食いできるようにしたのか、徳川家康も愛した白魚はどんな味なのか……。気になる! ということで、僕は4月26日、小川原湖を目指した。