未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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物でも思い出でもない、新しい旅のおみやげに出会う旅

「生きる術」を持ち帰る離島の農家民宿へ

文= 小野民
写真= 小野民
未知の細道 No.130 |25 January 2019
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#8農家が伝えたい「料理」のコツって?

食堂まるふ農園で料理教室。

チェックアウトの前に、もうひとつの体験「料理教室」に参加。まるふのお宿と食堂の女将である藤巻光加さんが担当する。ちなみに、藤巻さんの東京時代の仕事は、マーケティングリサーチャー。段取り上手で実行力のある彼女の手腕は、島に来てからも健在で、子どもの頃の夢だったという自分の店を持ったこと、「かみじまてしごと市」の実行委員長など、多岐にわたる分野で発揮されている。

週末には自然派食堂&カフェとして営業している

「まるふのお宿や食堂の料理は、農家だからこそ育てた野菜をなるべく無駄なく、おいしく。だから料理教室といっても、伝えたいのはコツや考え方なんです。とくに流儀があるわけではないのですが、こちらに来てからマクロビオティックを習ったらすごく合理的で。その考え方をベースにしたり、重ね煮という手法を取り入れたりしています」(藤巻さん)

料理教室に使った採れての野菜

配られたプリントには、「大切にしたいこと」として「一物全体(まるごと使う)」「身土不二(地産地消)」「引き算の調理、調和の調理」と挙げられている。たとえば、この日の最初の体験は、ほんの数cmの湯を沸かして茹でる青菜の味の違い。

ずっと「葉ものを茹でるときは根本から」と思っていたけれど、マクロビデオティックでは、葉先から入れるというのは目からウロコ。たしかに、そうやって調理したものは野菜のうまみがぎゅっと閉じ込められているような……。そして野菜のゆで汁はほんのり甘い。

青菜のゆで汁はシチューのだしとして利用

藤巻さんの料理を見ていると、驚くほど捨てるものが少ない。ヘタも土だけきれいにこそげるし、青菜の根の近くも無駄にしない。

野菜には旬があるけれど、それは同時にその時期にはその野菜ばかりが採れるということ。青菜は、おひたしにしておくと、おいしく1週間くらいは保存できるそう。「新鮮な野菜がやっぱりおいしいけど、たくさんある場合はすぐに茹でちゃうのがポイントです」(藤巻さん)

青菜の保存は、ゆで汁と醤油、塩でおひたしに

指摘されて気づいたのだけれど、私は、ずいぶんとゆがんだ姿勢で野菜を切っていたらしい。「足は90度くらいに開いて立って、丹田を前にむけて背筋を伸ばしてね。そうすると姿勢がよくなって疲れにくいし、丁寧に向き合えるから」(藤巻さん)

何人もの料理人を見たり、教わったりして身につけたという藤巻さんの、まな板に向かう立ち姿はたしかにすっと背筋が伸びて美しい。藤巻さんの料理はおいしいが、一番大切なことは、野菜をおいしく丸ごと味わいたいという姿勢なのかもしれない。

料理教室で完成した、(左上から時計回りに)紅芯大根のカルバッチョ、大根と人参の味噌炒め、菜っ葉のおひたし、酒粕と豆乳のシチュー
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。