チェックアウトの前に、もうひとつの体験「料理教室」に参加。まるふのお宿と食堂の女将である藤巻光加さんが担当する。ちなみに、藤巻さんの東京時代の仕事は、マーケティングリサーチャー。段取り上手で実行力のある彼女の手腕は、島に来てからも健在で、子どもの頃の夢だったという自分の店を持ったこと、「かみじまてしごと市」の実行委員長など、多岐にわたる分野で発揮されている。
「まるふのお宿や食堂の料理は、農家だからこそ育てた野菜をなるべく無駄なく、おいしく。だから料理教室といっても、伝えたいのはコツや考え方なんです。とくに流儀があるわけではないのですが、こちらに来てからマクロビオティックを習ったらすごく合理的で。その考え方をベースにしたり、重ね煮という手法を取り入れたりしています」(藤巻さん)
配られたプリントには、「大切にしたいこと」として「一物全体(まるごと使う)」「身土不二(地産地消)」「引き算の調理、調和の調理」と挙げられている。たとえば、この日の最初の体験は、ほんの数cmの湯を沸かして茹でる青菜の味の違い。
ずっと「葉ものを茹でるときは根本から」と思っていたけれど、マクロビデオティックでは、葉先から入れるというのは目からウロコ。たしかに、そうやって調理したものは野菜のうまみがぎゅっと閉じ込められているような……。そして野菜のゆで汁はほんのり甘い。
藤巻さんの料理を見ていると、驚くほど捨てるものが少ない。ヘタも土だけきれいにこそげるし、青菜の根の近くも無駄にしない。
野菜には旬があるけれど、それは同時にその時期にはその野菜ばかりが採れるということ。青菜は、おひたしにしておくと、おいしく1週間くらいは保存できるそう。「新鮮な野菜がやっぱりおいしいけど、たくさんある場合はすぐに茹でちゃうのがポイントです」(藤巻さん)
指摘されて気づいたのだけれど、私は、ずいぶんとゆがんだ姿勢で野菜を切っていたらしい。「足は90度くらいに開いて立って、丹田を前にむけて背筋を伸ばしてね。そうすると姿勢がよくなって疲れにくいし、丁寧に向き合えるから」(藤巻さん)
何人もの料理人を見たり、教わったりして身につけたという藤巻さんの、まな板に向かう立ち姿はたしかにすっと背筋が伸びて美しい。藤巻さんの料理はおいしいが、一番大切なことは、野菜をおいしく丸ごと味わいたいという姿勢なのかもしれない。