未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
108

〜ギターの森へようこそ〜

森の奥のギター・リペアマン

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.108 |25 February 2018
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#2リペアマンへの道

 一歩、工房に入ると、びっくりするような風景が眼前に広がった。広めのワンルームの工房には、ギターや、作りかけのギターのようなものが、床や棚にところ狭しと並べられている。アコースティックギターやエレキギターだけでなく、それ以外の弦楽器もある。それから大小さまざまな木材、そして糸鋸や鉋など、私でもわかる小さな道具から、見たこともない、大きな機械もたくさんあった。さらに天井を見上げると、色あせた設計図のようなものもたくさん貼ってある。人ひとりが作業するスペースしかないような工房のなかは、建物の外観からは全く想像もつかない、ギター製作の小宇宙だったのだ。
 圧倒されている私に「これでも相当片付けたんですけど」と斎藤さんは笑って言った。

 勧められた小さな椅子に座って、斎藤さんと向き合った。いかにもものづくりの人という感じの雰囲気を漂わせる斎藤さんは、落ち着いた声で、ギターも、ギター・リペアの世界も全くのド素人の私の質問に、丁寧に答え始めた。

 中学生の頃からギターや音楽が好きで、バンドをやっていたこともあるという斎藤さん。折しも時代は80年代。ハード・ロックが盛んであり、ギターやバンドに憧れる若者は多かった。
「でも《好き》のベクトルがちょっと違ってたんでしょうね」と斎藤さんは言う。母方の祖父が大工だったこともあってか、子供の頃から身近な物を解体したり、修理したりする作業も、ギターと同じくらい好きだったという斎藤さんは、高校卒業後、ギターの制作・修理の専門学校に入って、本格的にその技術を学ぶことを選んだのだった。
 専門学校を卒業した後は、同じ学校で講師として4年ほど学生に教え、その後は埼玉の実家の一部屋を工房として独立。専門学校で学んでも、独立したリペアマンとして働いている人はほとんどいないというこの業界だが、斎藤さんは、初めは楽器店などの仕事を請け負いながら、とにかくこの仕事を一人で続けた。
 しばらくとすると実家では手狭になり、入間に工房を構えたが、仕事が増えるにつれて、さらに広い工房が必要となり、友人の紹介でここ手賀の森に引っ越してきたのだという。15年前のことだった。


未知の細道 No.108

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

ギター・リペアの世界に触れる旅プラン 日帰り

予算の目安5000円〜

最寄りのICから【E6】常磐自動車道「柏」を下車
1日目
ギター工房「ソーンツリー」Facebook
住所:千葉県柏市手賀1536-1 電話:04-7191-9797)へ。
ギターを始めとする、さまざまな弦楽器の修理・製作を行っている。楽器の相談のほか、見学もできるので、ギター製作のハイレベルなテクニックの世界に触れてみよう!
見学後は周辺の森や手賀沼を散策。手賀沼や近隣の小川にはバス釣りなどのポイントもある。

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。