一歩、工房に入ると、びっくりするような風景が眼前に広がった。広めのワンルームの工房には、ギターや、作りかけのギターのようなものが、床や棚にところ狭しと並べられている。アコースティックギターやエレキギターだけでなく、それ以外の弦楽器もある。それから大小さまざまな木材、そして糸鋸や鉋など、私でもわかる小さな道具から、見たこともない、大きな機械もたくさんあった。さらに天井を見上げると、色あせた設計図のようなものもたくさん貼ってある。人ひとりが作業するスペースしかないような工房のなかは、建物の外観からは全く想像もつかない、ギター製作の小宇宙だったのだ。
圧倒されている私に「これでも相当片付けたんですけど」と斎藤さんは笑って言った。
勧められた小さな椅子に座って、斎藤さんと向き合った。いかにもものづくりの人という感じの雰囲気を漂わせる斎藤さんは、落ち着いた声で、ギターも、ギター・リペアの世界も全くのド素人の私の質問に、丁寧に答え始めた。
中学生の頃からギターや音楽が好きで、バンドをやっていたこともあるという斎藤さん。折しも時代は80年代。ハード・ロックが盛んであり、ギターやバンドに憧れる若者は多かった。
「でも《好き》のベクトルがちょっと違ってたんでしょうね」と斎藤さんは言う。母方の祖父が大工だったこともあってか、子供の頃から身近な物を解体したり、修理したりする作業も、ギターと同じくらい好きだったという斎藤さんは、高校卒業後、ギターの制作・修理の専門学校に入って、本格的にその技術を学ぶことを選んだのだった。
専門学校を卒業した後は、同じ学校で講師として4年ほど学生に教え、その後は埼玉の実家の一部屋を工房として独立。専門学校で学んでも、独立したリペアマンとして働いている人はほとんどいないというこの業界だが、斎藤さんは、初めは楽器店などの仕事を請け負いながら、とにかくこの仕事を一人で続けた。
しばらくとすると実家では手狭になり、入間に工房を構えたが、仕事が増えるにつれて、さらに広い工房が必要となり、友人の紹介でここ手賀の森に引っ越してきたのだという。15年前のことだった。
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松本美枝子