できると思って始めてみたものの、実際のマンゴー作りはわからないことだらけ。栽培するにも全く情報がない。
そこでしつ子さんは、茨城県の農業改良普及センターに行って「うちでこれからマンゴーの栽培を始めるから、マンゴーについて、なんでもいいから教えてください」と頼んだ。茨城県は前述の通り、日本有数の農業県であり、さまざまな農作物の北限であり、南限である、と言われている。しかしその茨城県の農業改良普及センターでも、さすがにマンゴーのことは誰もわからなかった。誰も作ってみたことがないからだ。
それでも、あの花の保田さんが茨城県初のマンゴー栽培に取り組むというのなら、こちらも協力しようじゃないか! とセンターでは沖縄や鹿児島のデータを集めてきてくれた。そんな周りの助けもあって、いよいよマンゴーの生産が始まった。
「マンゴー作りには、やっぱり花の経験がかなり役に立ったな」と保田さんは言う。違いは花か実か、ただそれだけの差なんだ、と保田さんは続けた。花の鉢が、ハウスの中で徹底的に給水と温度を管理されて、美しい花を咲かせるように、マンゴーも露地栽培ではなく同じようにハウスの中で、温度と給水を管理して育てるのである。しかも地植えでなく、ボックス栽培、つまり大きな鉢と同じような状態で育てるのだ。
沖縄や宮崎など本場と言われる産地のマンゴーの糖度は15度程度。しかし保田さんのマンゴーは糖度が18〜20度と、もっと高い。これは外国産や他の日本産のものと比較しても、トップレベルの品質だ。「ル・ポワロン」のシェフ、野澤さんが言っていた通り、わざわざ買う意味がある、非常に美味しいマンゴーなのだ。
そういえば野澤シェフは、やすだ園のマンゴーは他の産地に比べて水っぽさがない、と言っていた。その時は意味がよくわからなかったのだが、ハウスの中のボックスを見て、今度はその意味がわかった。
つまり、ここのマンゴーは大きな鉢のような状態の中で管理され、給水を計算されているから、無駄に水を吸うことがないので、味が薄まることがない。甘さがギュッと詰まった最高に美味しいマンゴーになるわけだ。
保田さんは高い糖度の秘密をさらに教えてくれた。寒暖の差によって糖度はさらにアップするのだという。九州や沖縄に比べて、茨城では寒暖の差がよりあるため、平均18度という最高級の糖度が生まれるというわけだ。
日本の南の産地は露地栽培が多いので、台風など天候の影響を受けやすい。やすだ園ではすべてのマンゴーがハウス栽培なので、高い品質のマンゴーを安定して収穫できるのも魅力の一つだ。保田さんも、外国産はもちろん、沖縄や宮崎などの他県産のものにも、美味しさには負けない自信がある、と胸を張る。
栽培が始まった最初の年は、50本の木から300個が取れた。マンゴーの木は20年はもつと言われている。保田さんとしつ子さんは、さらに50本の木を購入した。最初の年の50本と合わせて、この100本の木から、今では年間3000個ほどのマンゴーが取れるのだという。
保田さんのマンゴーは「小美玉SUN甘熟マンゴー」と名づけられ、知る人ぞ知る美味しいマンゴーとして、世の中に出て行くようになった。
未知の細道の旅に出かけよう!
マンゴーと茨城の食材巡りの旅 1泊2日
予算の目安1万5千円〜
※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。
松本美枝子