未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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最高級の糖度の秘密

花き栽培の技術が実を結んだ、マンゴー栽培

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.99 |25 September 2017
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#5沖縄からやってきた2本のマンゴーの木

2010年に初めて実をつけたマンゴーの様子。

 マンゴーと二人の出会いは、思わぬところからやってきた。
 2009年のこと。当時、保田さんが生産を手がけていた胡蝶蘭の苗を販売している沖縄の取引先から、マンゴーの贈り物が届いた。実は保田さんはそれまでマンゴーを意識して食べたことがなかった。沖縄から届いた赤いマンゴーは美しく、おいしさよりも、まず、その実の見た目に関心がいった。きれいだなあ、この実を栽培してみたいなあ。保田さんはそんなふうに思ったのだという。おいしさよりも、まずその美しさに惹かれるなんて、さすが園芸家らしい感想だなあ、と花より団子の私は内心思った。

 保田さんはさっそく、二本の苗木を沖縄から取り寄せて、育ててみることにした。もちろん、これからマンゴーを大規模に生産するようになるとは、その時は夢にも思ってはいなかった。初めはただ、趣味でマンゴーを育ててみたい、と思っただけだったのだ、と保田さんは言う。

 マンゴーは春に植えると、次の年の夏に実が採れる。
 この二本の木から、2010年に立派なマンゴーの実が6個ほど取れた。赤く色づいたきれいなマンゴーは、食べてみると、売り物と遜色なく美味しい。これはもしかしたら、美味しいマンゴーを大きく生産することができるんじゃないか? ふと保田さんはひらめいた。

 ポットマムの生産を始めた頃、近隣で誰一人、花の栽培をやっていなかったように、マンゴーを生産している農家は茨城ではもちろん、関東ではほとんどいなかった。「なんでも、いつも人よりちょっと早く始めてるんだよね」と笑う保田さんは、思い切って200万円をかけて、マンゴーの栽培を始めることにしたのであった。
 マンゴーのために花のハウスを一棟空けて、その中にある鉢を置くためのベンチは全て壊した。もし失敗したとしても、200万円ならなんとか取り戻せる、とりあえずやってみようか……、そんな気持ちだった。

 そしてその年、50本の苗木が、「やすだ花香園」へ、いや、のちに茨城県のマンゴー生産地第1号となる未来の「やすだ園」へと、沖縄から海を渡ってやってきたのであった。


未知の細道 No.99

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

マンゴーと茨城の食材巡りの旅 1泊2日

予算の目安1万5千円〜

最寄りのICから【E6】常磐自動車道「岩間」を下車
1日目
やすだ園(茨城県小美玉市部室174)へ。旬の時期(7〜8月)はマンゴーの直売を行っている。それ以外の時期はアイスクリームなどマンゴーの加工品を食べることができる。またフラワーガーデン、および花き栽培の温室やマンゴー栽培のハウスなどの見学も可能だ。(どちらも要事前予約 0299-48-2035)
2日目
茨城空港へ。物産館ではやすだ園のマンゴーのアイスクリームなどの他、茨城の名産品や、就航地の名産品などのショッピングが楽しめる。また空港近くの「そらの駅 そ・ら・ら」にも行ってみよう。やすだ園のマンゴー商品のほか、地元の農産物の直売所やレストランなどがあり楽しめる。

足を伸ばして、小美玉から車で35分の水戸の「レストラン ル・ポワロン」
へ。本格的で美味しいフランス料理が楽しめる。旬の時期にはマンゴーを使ったデザートが楽しめる。

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。