未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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ゲストハウスと公共温泉巡りのススメ

下諏訪で見つけたホカホカな旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.88 |10 April 2017
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#2まずはゲストハウスで

 温泉巡りの拠点に選んだのは、「マスヤゲストハウス」だ。下諏訪駅から歩くこと五分、赤いレンガの塀の立派な古民家に着くと、オーナーである斎藤希生子さん(愛称キョンちゃん)が「こんにちは」とふんわりとした雰囲気で出迎えてくれた。「宿屋の女将」というよりも、都会のカフェで美味しいケーキでも焼いていそうな感じ。ニコッとされた瞬間に、「ああ、この宿を選んでよかった!」と思わせる魅力の持ち主である。

 建物の中も、また素敵だった。古材がふんだんに使われながらも、明るく、モダン。レンガでできたペチカストーブがこの築百年以上の古民家を温める。

オーナーの斎藤希生子さん。ゲストハウスのラウンジの一角にあるお気に入りのソファの上で。

 私たちは、共有スペースの置かれた巨大なこたつにあたりながら、お互いの身の上話で盛り上がった。

「学生時代にいろんな国に旅をして、世界のゲストハウスに泊まるうちに、自分でもやりたいと思うようになって、三年間、東京のゲストハウスで働いて、一通り仕事を覚えて、ここに物件を見つけました」

 へー! キョンちゃんの出身は、諏訪のお隣の茅野市。一度は東京に出たキョンちゃんは、地元へのUターンにこだわっていたわけではなかったそうだが、「東京のゲストハウスで働いているうちに、自分でやるならば東京は違うなと思い始めました。すごくいろんな人が来てくれるんだけど、みんな目的があってただ宿は泊まるだけの人も多いし、宿泊客の人数も多くてあんまりお話をする時間もなかったり」

 そうして、地元に戻ることを思いついた。改めて見てみると、下諏訪はキョンちゃんの高校生時代とは事情がだいぶ変わり、魅力的なカフェや個性的なお店がたくさんできていた。

 こうして、この古い古民家の物件を見つけ、自分も泊まり込んでの怒涛のリノベーションを経て、「マスヤゲストハウス」が三年前に完成。長い間、廃業する宿屋はあっても、新たな宿屋ができることはなかった下諏訪では、かなりのニュースだったはずだ。

 それにしても、キョンちゃんは、ずいぶんと若い感じ。失礼ながらトシを聞いてみると、まだ28歳。「ゲストハウスを開いたのは 25歳の時」だと言うので「えー、すごい行動力!」とひっくりかえった。現在は生後四ヶ月の男の子の母となり、子育てをしながらここの運営もしている。ふんわりとした雰囲気の中に秘められた芯の強さに、すっかり恐れいった。


未知の細道 No.88

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

古くて新しい諏訪の名所や地元の人々に出会う旅1泊2日。

予算の目安1万5千円〜

最寄りのICから長野自動車道「岡谷IC」を下車
1日目
上諏訪でリビルディングセンター
訪問。
下諏訪に移動して、御柱際で有名な諏訪大社へ。
夜は下諏訪名物の
共同浴場
に行き、
マスヤゲストハウス
に宿泊。
夜はゲストハウスのバーで、地元の人や他のお客さんとの交流を楽しんで。
2日目
下諏訪のまちなかに点在する共同浴場巡りや街歩きを楽しもう。
おすすめの浴場やレストラン、カフェなどをマスヤのスタッフのみなさんに聞いてみよう。また、夏などの温かい時期ならば、足を伸ばして霧ヶ峰高原などを散策しても楽しい。

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。