温泉巡りの拠点に選んだのは、「マスヤゲストハウス」だ。下諏訪駅から歩くこと五分、赤いレンガの塀の立派な古民家に着くと、オーナーである斎藤希生子さん(愛称キョンちゃん)が「こんにちは」とふんわりとした雰囲気で出迎えてくれた。「宿屋の女将」というよりも、都会のカフェで美味しいケーキでも焼いていそうな感じ。ニコッとされた瞬間に、「ああ、この宿を選んでよかった!」と思わせる魅力の持ち主である。
建物の中も、また素敵だった。古材がふんだんに使われながらも、明るく、モダン。レンガでできたペチカストーブがこの築百年以上の古民家を温める。
私たちは、共有スペースの置かれた巨大なこたつにあたりながら、お互いの身の上話で盛り上がった。
「学生時代にいろんな国に旅をして、世界のゲストハウスに泊まるうちに、自分でもやりたいと思うようになって、三年間、東京のゲストハウスで働いて、一通り仕事を覚えて、ここに物件を見つけました」
へー! キョンちゃんの出身は、諏訪のお隣の茅野市。一度は東京に出たキョンちゃんは、地元へのUターンにこだわっていたわけではなかったそうだが、「東京のゲストハウスで働いているうちに、自分でやるならば東京は違うなと思い始めました。すごくいろんな人が来てくれるんだけど、みんな目的があってただ宿は泊まるだけの人も多いし、宿泊客の人数も多くてあんまりお話をする時間もなかったり」
そうして、地元に戻ることを思いついた。改めて見てみると、下諏訪はキョンちゃんの高校生時代とは事情がだいぶ変わり、魅力的なカフェや個性的なお店がたくさんできていた。
こうして、この古い古民家の物件を見つけ、自分も泊まり込んでの怒涛のリノベーションを経て、「マスヤゲストハウス」が三年前に完成。長い間、廃業する宿屋はあっても、新たな宿屋ができることはなかった下諏訪では、かなりのニュースだったはずだ。
それにしても、キョンちゃんは、ずいぶんと若い感じ。失礼ながらトシを聞いてみると、まだ28歳。「ゲストハウスを開いたのは 25歳の時」だと言うので「えー、すごい行動力!」とひっくりかえった。現在は生後四ヶ月の男の子の母となり、子育てをしながらここの運営もしている。ふんわりとした雰囲気の中に秘められた芯の強さに、すっかり恐れいった。
未知の細道の旅に出かけよう!
古くて新しい諏訪の名所や地元の人々に出会う旅1泊2日。
予算の目安1万5千円〜
※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。
川内 有緒