未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
88

長野県下諏訪町

下諏訪は、全国でも珍しいほどの公共浴場の密集地帯。番台のあるレトロなお風呂屋さんから、露天風呂、打たせ湯、足湯まで選びたい放題。ゲストハウスに泊まりながら、歩いて温泉巡りをしてみれば……いろんな世代の諏訪の人たちと知り合えて、心も体も芯からホカホカ!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.88 |10 April 2017
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
長野県下諏訪町

最寄りのICから長野自動車道「岡谷IC」を下車

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#1月明かりのお風呂屋さん

 空に月が昇り始めた夕暮れに、ポッと温かな光が灯っていた。ノスタルジックなサインには「新湯」の文字。暖簾の奥では、30年くらい前からここにいるかのようなおばちゃんがどっしりと番台に座っていた。

 大きなシャンプーボトルが入った「お風呂セット」を持った男女が、番台の右左に別れていく。浮かんできたのは、「あなたは、もう忘れたかしら〜♫」という『神田川』の一節。

私も、吸い込まれるように「ゆ」と書かれた暖簾をくぐる。料金はたったの230円。
 料金すらも『神田川』だなあと嬉しくなったが、いや、ここは神田川なんかじゃないし、1973年でもない! ここは、2017年の長野県の下諏訪である。

「下諏訪には、歩いていける範囲に温泉の公共浴場がいっぱいあるんだよ!」  旅好きの友人がそう教えてくれたのは、この旅の一ヶ月ほど前のことだった。私が、「上諏訪のリビセン(リビルディング・センター)に行くんだ」と話した直後だったと思う。

 へえ、そう…….でも、温泉くらいどこにでもあるし、という私の心を読むように、友人の言葉はこう続いた。

「入っているのはみんな地元の人ばっかりで、毎日のようにお気に入りのお風呂屋さんに通うんだって!」
 えっ、そうなの? この平成の時代に?

 調べてみると、確かに江戸時代の下諏訪は中山道随一の温泉宿場町。おかげで、今も九箇所の共同浴場、そして五箇所の足湯がギュウギュウとひしめいている。しかも、朝の5時半から夜10時、11時までという驚きの長時間営業である。

朝の5時半って早すぎない!? 

 東京でも地方でも、小さな公共浴場は風前の灯火である。理由は、シンプル。時代は昭和から平成になり、もうほとんどの家にお風呂が整備されたからだ。下諏訪だってきっと例外ではないはずなのに、どうやって賑わいが保たれているのだろうか。

 よし、温泉巡りをしてその魅力を確かめてみよう。というわけで、今回は一泊二日の下諏訪温泉物語である。


未知の細道 No.88

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

古くて新しい諏訪の名所や地元の人々に出会う旅1泊2日。

予算の目安1万5千円〜

最寄りのICから長野自動車道「岡谷IC」を下車
1日目
上諏訪でリビルディングセンター
訪問。
下諏訪に移動して、御柱際で有名な諏訪大社へ。
夜は下諏訪名物の
共同浴場
に行き、
マスヤゲストハウス
に宿泊。
夜はゲストハウスのバーで、地元の人や他のお客さんとの交流を楽しんで。
2日目
下諏訪のまちなかに点在する共同浴場巡りや街歩きを楽しもう。
おすすめの浴場やレストラン、カフェなどをマスヤのスタッフのみなさんに聞いてみよう。また、夏などの温かい時期ならば、足を伸ばして霧ヶ峰高原などを散策しても楽しい。

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。