それにしても、あまりにもシンプルな外見が気になった。ポーランドの有名な詩人の詩集ということすらも簡単にはわからないではないか。
「僕の中では、本というのは、言葉が“世界”として表現されているものです。だから、その他の余計なものはない方がいい。例えば『世界』も“ポーランドの云々”とか書いて目を引かせることもできるけれど、それは僕の中では余計なことだと思うんです。(本に対する)僕の思いを伝えたいという気持もないわけではないですが、それを伝えることよりも本の世界がきちんと立ち現れることが大事で、削ぎ落とされたものから光る世界を見た人が、キャッチしてくれればそれでいいのだと思います」
だから、真っ白なカバーのかと知って心が打たれた。そして、すぐにこの本を買おうと心に決めた。
「港の人では、3.11以降に帯をつけるのをやめたんです」
上野さんは少し唐突に言った。帯というのは、本の下の方に巻いてあるアレだ。たいていは、「たちまち重版!」とか「笑って泣けます」といった宣伝や推薦文がギッシリと書かれている。今は帯が大きくなる傾向すらあるのに、何故あえて帯をなくしたのだろうか?
「3.11の後、それまで世の中で当たり前だと思っていたことが、当たり前ではなくなった。だから、本を作る上でも“当たり前”を疑ってみることも大事なことなんじゃないかと。本にとって帯は本当に必要なものなのだろうか、と感じて、その疑問を形に表すという意味で外すことにしたんです」
私も出版の世界に深く関わってきた人間だ。だからこそ、その勇気がわかる。私たちは、当たり前のように「今回は帯になにを入れます? 誰かに推薦文もらいましょうか? キャッチフレーズは? それとも本文の抜粋でいきます?」などと話し合うことに疑問を持たない。
なんだか自分の中で、本に対するパラダイムが変わったような気がした。彼らのような人々が、未来の本の担い手なのかもしれないなと思った。
川内 有緒