長島さんが抜けてもチームはどんどん街を歩いていく。岩槻で個人宅を撮影してから、また電車を乗って、最後の目的地がある、すっかり夕闇に染まった大宮の街へ。
駅から歩くこと15分近く、さいたまトリエンナーレの会場の一つでもある市民会館おおみやからもほど近い、おもちゃ屋さん「Toy-Toy」だ。
Toy-Toy のドアを開けると、オーナー夫妻がセレクトした、海外の美しいおもちゃがいっぱい並んでいる。その一角に、色とりどりの積み木を使って作られた、この日一番の大きな「←」があった。
オーナー夫妻も見守る中、清美さんとおもちゃの「←」の、いろいろなシーンを切り取っていく川瀬さん。オーナー夫妻も、部屋のしつらえのアイディアを出してくれたりと、撮影は和やかに進んだ。
さて、いよいよ最後の撮影も終了。奥さんは、このプロジェクトに参加できてとっても面白かった! 展示を見るのを楽しみにしています、と喜んで「やじるしのチーム」を送り出してくれたのであった。
撮影が終わってから、長島さんが教える大学の院生で、リサーチャーの池上(アキラ)さんが、こんな話をしてくれた。実はアキラさんは、このプロジェクトのお手伝いが一段落したら、ウェールズに留学する事が決まっている。
「私の祖父母は大宮に住んでいるんです。このプロジェクトは例えば祖父母のようなお年寄りや先ほどのお店の人たちなど、普段自分がいる場所から、簡単に外へと出られない人たちにも参加してもらうことができる。今までの演劇プロジェクトでは決して会えなかったような人たちと出会うことができるんです」
アキラさんは自分たちメンバーが体験してきたこの楽しい旅のような時間を、どうやって他の人たちにお裾分けできるか、ということを考えているのだという。できれば、「←」を見て歩く「散歩ツアー」をやりたいな、とアキラさんは語ってくれた。
トリエンナーレ会期中に、この「散歩ツアー」が実現するよう、制作チームは目下、その計画中だ。
松本美枝子