バスに乗って、次に向かった先は、中浦和にあるコミュニティカフェ「のら」。オーナーさんは、とても珍しい花が手に入ったから! ぜひ今日、撮影に来て欲しい」と連絡をくれたのだという。それは大輪の黄色いオクラの花を使った「←」だった。
この店は、とてもすてきな佇まいのカフェだ。そのシンプルな部屋と南国の花に似合うような衣装を、香子さんは短い時間で考え出す。今度は青を基調としたベアトップとパンツで、まるで外国で過ごす夏休みのためのような衣装だった。
衣装の香子さんは、今、人気の若手演劇集団「FAIFAI」のメンバーでもある。実は香子さんは、まだプロジェクトの案が固まってない時から、長島さんのさいたまリサーチに同行してきた。プロセスを共有することで、その場の「←」に合う衣装のパターンをいくつも事前に考えてきているのだ。長島さんは、「劇場の外で何かする時に、いつか香子さんを誘いたい、とずっと思っていたんですよね」と言う。
一方、女優の清美さんと写真家の川瀬さんだけには、事前にどこに行ってどんな「←」に出会うのか、ということは知らされていない。二人は毎回、初めての現場で、それぞれの仕事をこなすこととなる。
撮影の傍らでは、制作の宮武さんと、リサーチャーで長島さんの教え子でもある、池上綾乃さん(アキラ、とみんなからは呼ばれていた!)は、スマホを片手に次の撮影場所の行き方などを調べ始めていた。
そう、このチームは撮影も、参加者との会話も、すべてがとても丁寧だ。時間をかけて、その場と向き合い、一つの情景を生み出していくため、常に時間が押しているのである!
「仕事としては破綻していますよね」と長島さんはにっこり笑った。
でもそれが、作家の真実の仕事なのだ! と私は思った。
次の目的地へは中浦和から電車に乗ることになった。
指扇駅で降りて向かった先は「COCOHOUSE」という可愛らしいカフェ。ランチタイムで、多分ご近所のマダム達であろう、たくさんの女性客で賑わっていた。ここの店長さんは、なんと「←」のランチを作ってくれて待っていた! とてもかわいいし、なおかつ、おいしい「←」だった。
COCOHOUSEをあとにして、次の目的地・岩槻へ行くために、また駅へと戻ることになった。
今日はまるで夏に戻ったかのように暑い。撮影のための大荷物を、それぞれが抱えて、集団でさいたまの街を南へ北へと、ひたすら歩くのも、なかなか大変なことに違いない。
すると清美さんが「旅みたいなものよね、これは」と言った。
普通の仕事の撮影だったら、チームをもっと少人数にして、タクシーで移動することもできる。でもそれをあえてしないで、大人数で、てくてく、さいたまの街を歩く。
それが大事なことなのよ、と清美さんが重ねて言った。
行く先々でいろんな人とおしゃべりする。撮影は「←」に導かれて出会うものとのセッションになる。そういう旅、みたいなもの、なのだ。
やっと指扇駅に戻った一団は、ここから、バスで大宮まで出て、さらに電車に乗り岩槻を目指すことになった。そしてこの後仕事が入っていた長島さんは一旦撮影チームから離脱。仕事を終えてから、夜にまた合流することになった。
松本美枝子