未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
77

「←」に沿って、さいたまの街を歩く!

長島確とやじるしのチーム~さいたまトリエンナーレ2016~

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.77 |25 October 2016
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#6二つのカフェ

撮影を見守る。佐藤慎也さん(右から二番目)はこのプロジェクトの「構造設計」を担当する建築の専門家。本人曰く「長島さんの相談相手」

 バスに乗って、次に向かった先は、中浦和にあるコミュニティカフェ「のら」。オーナーさんは、とても珍しい花が手に入ったから! ぜひ今日、撮影に来て欲しい」と連絡をくれたのだという。それは大輪の黄色いオクラの花を使った「←」だった。
 この店は、とてもすてきな佇まいのカフェだ。そのシンプルな部屋と南国の花に似合うような衣装を、香子さんは短い時間で考え出す。今度は青を基調としたベアトップとパンツで、まるで外国で過ごす夏休みのためのような衣装だった。
 衣装の香子さんは、今、人気の若手演劇集団「FAIFAI」のメンバーでもある。実は香子さんは、まだプロジェクトの案が固まってない時から、長島さんのさいたまリサーチに同行してきた。プロセスを共有することで、その場の「←」に合う衣装のパターンをいくつも事前に考えてきているのだ。長島さんは、「劇場の外で何かする時に、いつか香子さんを誘いたい、とずっと思っていたんですよね」と言う。
 一方、女優の清美さんと写真家の川瀬さんだけには、事前にどこに行ってどんな「←」に出会うのか、ということは知らされていない。二人は毎回、初めての現場で、それぞれの仕事をこなすこととなる。

 撮影の傍らでは、制作の宮武さんと、リサーチャーで長島さんの教え子でもある、池上綾乃さん(アキラ、とみんなからは呼ばれていた!)は、スマホを片手に次の撮影場所の行き方などを調べ始めていた。
 そう、このチームは撮影も、参加者との会話も、すべてがとても丁寧だ。時間をかけて、その場と向き合い、一つの情景を生み出していくため、常に時間が押しているのである!
「仕事としては破綻していますよね」と長島さんはにっこり笑った。
 でもそれが、作家の真実の仕事なのだ! と私は思った。

  • チームの縁の下の力持ち的存在、宮武さん(左)と池上さん(右)

 次の目的地へは中浦和から電車に乗ることになった。
指扇駅で降りて向かった先は「COCOHOUSE」という可愛らしいカフェ。ランチタイムで、多分ご近所のマダム達であろう、たくさんの女性客で賑わっていた。ここの店長さんは、なんと「←」のランチを作ってくれて待っていた! とてもかわいいし、なおかつ、おいしい「←」だった。


 COCOHOUSEをあとにして、次の目的地・岩槻へ行くために、また駅へと戻ることになった。
 今日はまるで夏に戻ったかのように暑い。撮影のための大荷物を、それぞれが抱えて、集団でさいたまの街を南へ北へと、ひたすら歩くのも、なかなか大変なことに違いない。
 すると清美さんが「旅みたいなものよね、これは」と言った。
 普通の仕事の撮影だったら、チームをもっと少人数にして、タクシーで移動することもできる。でもそれをあえてしないで、大人数で、てくてく、さいたまの街を歩く。
それが大事なことなのよ、と清美さんが重ねて言った。
 行く先々でいろんな人とおしゃべりする。撮影は「←」に導かれて出会うものとのセッションになる。そういう旅、みたいなもの、なのだ。

 やっと指扇駅に戻った一団は、ここから、バスで大宮まで出て、さらに電車に乗り岩槻を目指すことになった。そしてこの後仕事が入っていた長島さんは一旦撮影チームから離脱。仕事を終えてから、夜にまた合流することになった。

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未知の細道 No.77

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。