未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「←」に沿って、さいたまの街を歩く!

長島確とやじるしのチーム~さいたまトリエンナーレ2016~

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.77 |25 October 2016
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#5「←」を道しるべに撮影は進む

 さて「←」のチームが次に向かった先は、市役所から歩くこと15分ほどの、高野さんのお宅だ。
 長島さんと制作の宮武さんは今回、たくさんの人が参加してくれるようにと、チラシの配布だけでなく、自らが市内のさまざまなコミニュティや団体を回って、プロジェクトを説明し、市民に参加を呼びかけた。高野さんは、その中の一つで出会った、タイル教室の山口先生の生徒さんなのだ。お宅に向かうと山口先生と高野さんが待っていてくれた。
 高野さんのお宅は道路から階段を上がったところにある。
 道路から見上げると、高いフェンスに小さな可愛い手作りタイルの矢印が並んでいる。

 高野さんのおうちの「←」を眺めながら、長島さんはこう言った。
「このプロジェクトは、「←」を探しに行くのではなくて、「←」を作った人たちに、呼んでもらうことだと思っているんですよね」
 なるほど、街に住む人々を表すこの「←」たちは、トリエンナーレを見に来る私たちを待っているんだな、と私は思った。

 川瀬さんたちは道路を渡って、少し遠い位置から撮影し始める。道路には車や自転車がどんどん通るので、川瀬さんは、過ぎ行く人々を確認しながら、ゆっくりと撮影していた。多分、そんな二度と出会わないかもしれない人々も、写真のなかに収めているのかもしれないな、と私は道路を隔てた川瀬さんを見て、ふと思った。

 ここでも清美さんは赤いドレスを着て階段を登り、「←」とともに写真に収まった。さて、どんな写真になったのだろうか?

 

 待ちの時間で、清美さんが私に言った。「まるで芝居しているみたいよね」。
 私は、「え!? これ、私から見ると、完全に、普通の街の中で繰り広げられる即興芝居に見えますよ」と言った。
 この「←」プロジェクトは、アートプロジェクトであり、上演ではない。それに劇団円の女優であり、舞台はもちろんの事、テレビや映画にもたくさん出ている女優・谷川清美さんからすれば、もちろん、これはいつものお芝居とは全く違うお仕事であろう。でも私には、「←」のある仕掛けが、街に一瞬の物語をもたらす、すてきなお芝居に見えるのだ。
 そうすると清美さんは、にっこり笑って「そう?」といった。


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未知の細道 No.77

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。