未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
77

「←」に沿って、さいたまの街を歩く!

長島確とやじるしのチーム~さいたまトリエンナーレ2016~

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.77 |25 October 2016
この記事をはじめから読む

#8展示作業

 夜7時の大宮の繁華街には、たくさんの人で溢れていた。
 撮影を終えた「←」のチームは、その一角にある大宮タカシマヤの6〜8階階段踊り場にあるローズギャラリーへと向かった。都内から戻った長島さんと、このプロジェクトのデザイナー、福岡泰隆さんも合流していた。
 ここで今日撮影したような写真を編集してレイアウトした「紙芝居」と呼んでいる大判プリントを、会期中、少しずつ展示していくのだ。タカシマヤが閉まってから、展示作業を始める「←」のチーム。
 取材した日はまだトリエンナーレが始まったばかりだったから、「紙芝居」の枚数は少なかった。今夜のうちに3枚ほど、大判のプリントを貼る作業をするのだという。

 それでも写真に収められた、たくさんの「←」は壮観であった。
 テーマが決まっていても、人の造形とは、こんなにも自由で、個性豊かなんだ、と改めて、一つ一つの「←」を見て思う。
 この「←」を作る人は、この「←」が掲げられた家に住む人たちは、いったいどんな人々なんだろう、と思わず想像しては笑みがこぼれてしまう。たくさんの「←」からは、確かにそこに生きる人々のそこはかとない気配が漂っていた。

 これから、会期を追うごとに、写真はもっと増えていくだろう。
「会期が始まってからも、まだ参加できる! というのが、このプロジェクトのポイントなんですよ」と長島さんは笑って教えてくれた。きっと「←」を作って参加する人もこれからまた増えるに違いない。そうすると川瀬さんの撮影はますます大変になりそうだ! と私は思った。それはきっと嬉しい悲鳴、というやつだ。

 さて、まだまだ作業中のチームと別れ、また増える「紙芝居」を見に来る事を約束して私は、長島さんと「←」のチームの皆と別れた。
 夜9時前、大宮駅から街へと流れる人並みと、反対方向へと歩いていく。仕事を終えて家路に向かう人々だろうか。雑踏を歩きながら、さいたまって、本当にたくさんの人が住んでいる街なんだよな、と改めて思う。

 そういえば長島さんは、「埼玉都民」って言葉を使っていたっけ。たくさんの人が住んでいるけれど、首都に働きに行く人が多いこの街では、昼間はその顔が見えにくい。でもそこに確かに人が住んでいることを、人々の物語があることを、さまざまな「←」を見て、感じてほしい。「←」とは、そんなプロジェクトなのだ。

 さて「←」のプロジェクトがこの後どうなったか、ぜひ「さいたまトリエンナーレ2016」(会期:2016年9月24日〜12月11日)を見に行って欲しい。まずは大宮タカシマヤへ「←」の写真の物語を見に。それからさいたま市に散らばる、「←」を見に街へと出かけて欲しい。そこにはきっとよそゆきでない、普段のさいたまの町があるはずだ。「←」を作った誰かとすれ違うこともあるかもしれない。そして、それから、その「←」を道しるべにして、さいたまの街で繰り広げられている、たくさんの現代アートの作品たちに会いに行って欲しい。

このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.77

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。