話を聞いてみて、いったいどんなやじるしが実際にあるのだろうか? と興味が湧いてきた。とにかく実物を見てみたい! ということで、長島さんと、トリエンナーレのアシスタント・ディレクター、里村真理さんと共に岩槻の商店街にある「←」を見にいくことになった。
撮影担当の写真家・川瀬一絵さんと制作の宮武亜季さんも合流して、いざ小雨の中の「一番街商店会」へ。一番街商店会は岩槻の街における随一の「飲める」通りだ。美味しい居酒屋や食事処が並んでいるだけでなく、クリーニング店や、美容室、整骨院などもあり、街の生活に密着した通りとなっている。
到着すると商店街の会長、小宮彰さんや住人たちが出迎えてくれた。なんと商店街の人々が、たくさんの「←」を店先に飾って、参加してくれているらしい。
まっすぐ伸びた商店街の店先に、「←」がたくさん散らばっていた。クリーニング屋さんの「←」はワイヤーハンガーを使っている。料理屋さんの「←」はパスタを使ったり、自転車屋の脇にもタイヤチューブで作った大きな「←」が掲げられている。かわいくてきれいなものから、なんじゃこりゃ! というものまで、素材も形態もさまざまで、作った人の個性がにじみ出ている。
植木鉢の茂みに置かれた二つの三角の木っ端は、小宮さんが作ったもの。一見すると「←」がどこにあるのか、果たしてこれが「←」なのかどうかもよくわからないが、「みんなが作っているのを見て、じゃあ、全く違うものを作ろうと思ったんだよね」と小宮さんはしてやったり、という顔をして笑っている。
そしてそれらはすべて西から東へと、同じ方向を指している。岩槻エリアのトリエンナーレ会場「旧民俗文化センター」へと続く通りに向かう方向だ。
「このプロジェクトは、家にいながらにして、誰もが参加できるんですよ。たとえ家から一歩も出かけなくてもトリエンナーレに参加できる、そういうプロジェクトなんです。撮影の時に、家にいてくれても、いなくても構わないし」と、長島さんは教えてくれた。
確かに商店街でも、「←」だけが撮影隊を出迎えてくれるところもあった。長島さんが感じた、この町に住む人たちの気配を外の人へと伝え、なおかつトリエンナーレとつながることができるツールが、この「←」なのだろう。
「明日はチームのフルメンバーが集まります。よかったら是非、明日も来てください」長島さんが言った。フルメンバーとはカメラマンと制作の他に、なんと女優、衣装、建築の専門家、リサーチャー、デザイナーの総勢8人。女優の谷川清美さんが「←」のある風景にいる人物として、写真に写り込むというプロジェクトなのだという。
そう、このプロジェクトは長島さん一人のものではなく、「長島確+やじるしのチーム」なのだ。演劇的な構造を持つアートプロジェクトである。
里村さんも「やじるしのチームって、さまざまなスペシャリストの集まりなんです。それと、めちゃくちゃ歩くから、足が痛くなりますよー」とニコニコしながら言う。
私は翌日も朝から、「やじるしのチーム」に同行することに決めた。
松本美枝子