未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「←」に沿って、さいたまの街を歩く!

長島確とやじるしのチーム~さいたまトリエンナーレ2016~

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.77 |25 October 2016
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#3「←」がある商店街

 話を聞いてみて、いったいどんなやじるしが実際にあるのだろうか? と興味が湧いてきた。とにかく実物を見てみたい! ということで、長島さんと、トリエンナーレのアシスタント・ディレクター、里村真理さんと共に岩槻の商店街にある「←」を見にいくことになった。

 撮影担当の写真家・川瀬一絵さんと制作の宮武亜季さんも合流して、いざ小雨の中の「一番街商店会」へ。一番街商店会は岩槻の街における随一の「飲める」通りだ。美味しい居酒屋や食事処が並んでいるだけでなく、クリーニング店や、美容室、整骨院などもあり、街の生活に密着した通りとなっている。
 到着すると商店街の会長、小宮彰さんや住人たちが出迎えてくれた。なんと商店街の人々が、たくさんの「←」を店先に飾って、参加してくれているらしい。

 まっすぐ伸びた商店街の店先に、「←」がたくさん散らばっていた。クリーニング屋さんの「←」はワイヤーハンガーを使っている。料理屋さんの「←」はパスタを使ったり、自転車屋の脇にもタイヤチューブで作った大きな「←」が掲げられている。かわいくてきれいなものから、なんじゃこりゃ! というものまで、素材も形態もさまざまで、作った人の個性がにじみ出ている。
 植木鉢の茂みに置かれた二つの三角の木っ端は、小宮さんが作ったもの。一見すると「←」がどこにあるのか、果たしてこれが「←」なのかどうかもよくわからないが、「みんなが作っているのを見て、じゃあ、全く違うものを作ろうと思ったんだよね」と小宮さんはしてやったり、という顔をして笑っている。
 そしてそれらはすべて西から東へと、同じ方向を指している。岩槻エリアのトリエンナーレ会場「旧民俗文化センター」へと続く通りに向かう方向だ。

「このプロジェクトは、家にいながらにして、誰もが参加できるんですよ。たとえ家から一歩も出かけなくてもトリエンナーレに参加できる、そういうプロジェクトなんです。撮影の時に、家にいてくれても、いなくても構わないし」と、長島さんは教えてくれた。
 確かに商店街でも、「←」だけが撮影隊を出迎えてくれるところもあった。長島さんが感じた、この町に住む人たちの気配を外の人へと伝え、なおかつトリエンナーレとつながることができるツールが、この「←」なのだろう。

「明日はチームのフルメンバーが集まります。よかったら是非、明日も来てください」長島さんが言った。フルメンバーとはカメラマンと制作の他に、なんと女優、衣装、建築の専門家、リサーチャー、デザイナーの総勢8人。女優の谷川清美さんが「←」のある風景にいる人物として、写真に写り込むというプロジェクトなのだという。

 そう、このプロジェクトは長島さん一人のものではなく、「長島確+やじるしのチーム」なのだ。演劇的な構造を持つアートプロジェクトである。
 里村さんも「やじるしのチームって、さまざまなスペシャリストの集まりなんです。それと、めちゃくちゃ歩くから、足が痛くなりますよー」とニコニコしながら言う。

 私は翌日も朝から、「やじるしのチーム」に同行することに決めた。

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未知の細道 No.77

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。