昨晩の狂宴から一夜明け、畑の真ん中にあるSUNKING Cafeは別人のように穏やかな表情を見せる。そして、取材をするひとりさんの後ろについていく僕。こんな環境ははじめてだ。
富山のアパレルショップで働いていた卓さんが、ハリウッドランチマーケットでの10年を経て、一文無しのスタートから、勝沼の地でSUNKING Cafeを立ち上げる。その物語は後日MeLikeでアップされる記事を読んでほしい。
旅を愛するライターである僕としては、会社に通う必要もないので、東京の家賃に払う「お金」とそのために働く「時間」をもっと有効に使いたいと、漠然とそう思っていた。移住先として注目されている場所はいくつもあるが、卓さんが選んだのは「勝沼」という未開拓で無垢な場所。「もう出来あがっている場所ではなく、ゼロからはじめられる場所がよかった」という卓さんの言葉が印象的だった。
そして、お金との付き合い方。世界企業でもない限り、人口が減っているのに「売上を伸ばせ」とばかり言われると、必要がない人に必要がない物を売りつけないといけないような仕事になってくる。少なくとも僕はそういう仕事には負い目があった。卓さんは、飲食が儲かる仕事ではないと分かった上で、「これが自分のお店だ」と誇れる仕事ができる場所を作り上げた。移住した先で何を仕事にすればいいのか、という問いに関しては「自分がやりたいことに素直になる」だけでなく、「何をして対価をもらうことが一番自分を誇れるか」を考えて仕事を選ぶことも大切だと学ばせてもらった。
気づけば夕方になっていた。SUNKING Cafeには大きなガラス張りの窓があり、それがまるでスクリーンのようで、南アルプスに落ちていく夕日がきれいに見える。卓さんにとってはもう何度も見たであろう夕日。それでも、飽きることがないような真っ直ぐな眼差しで穏やかに見つめている。
「これからマジックアワーです。きれいだよー」
まるで、ドキュメンタリー映画を観ていたようだった。卓さんの言葉に編集など必要ない、そう思わされるほどの取材光景だった。
ライター 志賀章人(しがあきひと)