待ち合わせ場所は、東山梨駅。まだ18時を回ったばかりだというのに、とっくに店じまいを終えたのか、店の明かりも人の気配もなくて、まるで深夜のようだ。電車が行ってしまうと、時が止まってしまったようであり、僕以外のすべての人が消失してしまったようでもある。
指定された駐車場に向かい、暗闇の中、「ひとりさーん!」と呼びかけると。
ーーーッ!!!
三つの懐中電灯から集中砲光を浴びた。そう、ひとりさんは、ひとりではなかった。この日から、僕と同じような目的のメンバーが二人同乗することになっていて、結果的に四人旅となったのだ。ひとりさんのオープンマインドは半端ない。手を差し出しながら、ひとりさんが近づいてくる。
「どーも!どーも!」
どーもを2度重ねる人に悪い人はいない。ひとりさんと握手を交わしながら、MeLikeというメディアからにじみ出ている人柄と同じであることに安心する。そして、目の前には憧れのバン。
スバルの「サンバーディアスバン 660クラシック」。カスタムにお金がかかっていそう、と思いきや。色はそのまま、中もそのまま。90年代のバンを中古で買って、ロゴをペイントしただけだという。
フロントドアからバンの中を覗いてみると、運転席と助手席があるのは当然として、その後ろの座席は折りたたまれ、荷室エリアとあわせた一面に、白く塗られた木の板が敷いてある。大人ひとりが寝転がるには十分な広さだ。バンのお尻側からバックドアを開けると、折りたたんだ座席の高さと帳尻を合わせるように収納ケースが入っている。これで木の板がフラットになるというわけだ。ケースの中には、寝袋や鍋などのアウトドア用品が入っていて、ギターまで立てかけてある。まるで家、というだけでなく、雑誌に出てくるようなスタイリッシュな部屋をモバイルしているところがすごい。
さて、ここで問題が。このままでは四人がバンに乗れないのだ。というわけで木の板をひっぺがし、後部座席を蘇らせると、さすがに荷室エリアもいっぱいに。大人四人が乗り込んで走り出すと、駆け出しバンドの全国ツアーみたいにギュウギュウパンパン、ミニバンバン。狭さの分だけ距離も縮まるというもので、車内は自己紹介で盛り上がる。同乗者のお二人は、以前からのお知り合いで、ひとりさんが今夜向かう場所に興味があって合流することになったという。さっそく「今夜はどこにいくんですか?」と尋ねてみる。
「山梨には前も取材しに来たことがあるんですよ。そのとき知り合った方に、『SUNKING Cafe(サンキングカフェ)』という場所を勧められまして。聞くところによると、代官山の『ハリウッドランチマーケット』で立ち上げの頃から働いていた方が移住してはじめたお店らしいんです。取材の相談をしたら、今夜、DJライブもあるから取材の前に来てみたら、って誘ってくれて。とにかく行ってみようと思うんです」
おお! ハリウッドランチマーケット! 高校時代を大阪で過ごした僕にとって、代官山の“ハリラン”は憧れのアパレルショップ。上京したときには、真っ先に拝みに行ったものだ。当時、洋服は高くて買えなかったけど、缶バッジを買って大事に身につけていたものだ。
東京のオシャレ最前線でバリバリ働いていた人が、なぜ山梨を選び、どんな暮らしをはじめたのか? 僕もその方のお話を聞いてみたい。ワクワクしながらついていく。
ライター 志賀章人(しがあきひと)