目指す住所は「山梨県勝沼市休息」。地名が「休息」だなんてロマンスがありあまる! 大きな国道沿いに大きな駐車場があって大きな看板を出しているような店ではない。「SUNKING Cafe」は、国道411号からほんの少し小道に入った、ぶどう畑の真ん中にある。まさに「休息」の地にふさわしいお店である。決して分かりにくい場所ではない。国道を走っていると、お店から漏れる光だけで伝わってくる存在感があって、すぐにそこだと分かったぐらいだ。バンを停めてお店のドアを開くと、駅の静けさとは打って変わって多くの人で賑わっていた。
「どーも!」
どーもを1度しか言わない人は言葉に迷いがない人だ。SUNKING Cafeのオーナーにして、かつてはアパレル業界の最前線に立ち、ファッションアイコンとしてもポパイやオリーブなどの雑誌で取り上げられていた上村卓也さん(以下、卓さん)。実は、ちょっと怖い人なのかなと想像していた。でも、一声で違うと分かった。「サンキングカフェ」でググってみてほしい。みな、卓さんの気さくな人柄に惚れ込んだコメントばかりだ。
すでにDJライブは始まっていたが、まずは腹ごしらえ。この日メニューにあったのは、「手作りがんもどき定食」と「タイ風グリーンカレー」。作っているのは卓さんの奥さんだ。
びっくりした。がんもどきって、こんなにふわっとしていて美味しいんだ。しかも、ハンバーグぐらい大きくて、特製の玄米と食べ合わせると、これだけでもご飯がすすむ。
「野菜は、ほら、奥に座ってる古屋くんがつくってる」
カウンターの奥にいたのは「マル神農園」の古屋聡さん。有機肥料だけの無農薬栽培で育てられた野菜たちは、都内をはじめ数々のレストランから必要とされていて、今や手に入れるのも難しいほど人気だという。そして、それらの野菜に絶妙に合うのが勝沼のワイン。卓さんが好みに合わせてボトルを用意してくれる。
「ワインは、ほら、いまDJしてる若尾くんがつくってる」
DJをしていたのは「若尾果樹園/マルサン葡萄酒」の若尾亮さん。300年前の江戸時代からぶどうを育てていた果樹園であり、ワイナリーでもある。飲ませてもらった「ベリーA 百」は濃厚なイチゴジャムのような華やかな厚みがたまらない。
作っている人がすぐそこにいる。SUNKING Cafeのイベントでは、そんな出会いが立て続けに起こるのだった。
「このあたりは人が少ないぶん、会いやすいんですよ。こんなことやってる、こんなことやりたいって、弱くても電波を出しておけば、障害物がないぶん遠くまで届く。東京は障害物が多すぎて発信しても壁を越えていかないし、すぐ近くに面白い人がいても気づかないことが多い。僕も東京の方が人に出会いやすいと思ってたんだけど、逆だな、と実感してるんです」
卓さんが話す言葉には温度があって、引力があって、惹きこまれる。ひとりさんの様子は? とあたりを見回すと、すっかり古屋さんや若尾さんと溶け込んで、肩を組んで歌っているではないか。旅の魅力は、やっぱり人と出会えることだ。あらためてそう感じる夜だった。
ライター 志賀章人(しがあきひと)