未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
55

東京の森で深呼吸をしよう 「東京最後の野生児」と歩く
奥多摩

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.55 |20 Nobember 2015 この記事をはじめから読む

#8石の塔を作る

 さて、渓谷沿いをゆっくりと歩く私たちは、河原に出た。すると土屋さんは、大小の石をランダムな形に積み上げ、石の塔を作り始めた。ストーン・バランシングという遊びだというのはテレビで見たことがあった。
「じゃあ、川内さん。石を12個積み上げてみてください」
「え、12個!?無理ですよ!」
 そう言いながらも、とにかくチャンレンジしてみる。なるべく平らな石を探し、ゆっくりと乗せてみる。しかし、3、4個までは簡単なのだが、そのあとは毎回バラバラと崩れてしまう。
「こりゃあ、私には、無理ですね」とあっという間に諦めると、「いや、真剣にやれば絶対にできます。できない人はいません」と彼は言う。
「えっ? 本当にできない人はいないんですか?」
「いません。子どもでもできます」
 私はその言葉に鼓舞され、気持ちを石と指先に集中させた。時間をかけて石同士がピタッと吸い付く地点を探していく。すると、不思議と一箇所はグラグラしないポイントが見つかる。ピタリと合うと気持ちがいい。「真剣に」というのがポイントだ。私はさっきまで「どうせできやしない」と、適当にトライしていたのだ。
 指先の集中力を切らさずいると、今度は不思議なくらいすっすっと石が積み上がっていくではないか。そして、本当に12の石が重なった。
「わ、本当にできた!」
「いい感じですね!安定してますよ。1、2、3….あれ! 11ですよ。あと、ひとつ!」
 ひゃあ、あと、ひとつか。私は、最後にとびきりの小石をつまみあげると、そっと乗っけた。はたして石はそこにとどまった。平たい石ばかりの不恰好な塔だったが、でき上がったのはまちがいない。緊張感から解き放たれて、肩のあたりが軽くなった。
 傍には、土屋さん作の不思議な形の塔がたくさんできていた。そのいくつもの石の摩天楼を見ているうちに、あ、いま意識が忙しい日常から離れてたなとはっきりわかった。


未知の細道 No.55

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

奥多摩(2日間)

予算の目安 2万円~

最寄りのICから圏央道「青梅IC」または中央自動車道「八王子IC」を下車、奥多摩町へ
1日目
奥多摩の森林セラピーロードをゆっくり歩いて疲労回復。自分の体力や興味と合わせてロードを選択しましょう。
夕方は、奥多摩温泉もえぎの湯へ。
宿泊は、このエリアに20日所以上ある宿坊を体験しても面白いかも!?
2日目
朝からアクティブに渓谷や渓谷へ出かけて、ウオーキングやラフティング、山登りなどの各種アウトドアを楽みましょう。体力に自信がない人は、御嶽山のケーブルカーに乗車して景色を楽しんで。
ランチは、渓谷沿いの眺めの良いランチスポットや、土屋さんが運営する「つちのこカフェ」もおすすめ。

◎ オススメ! 土屋さんが主催する体験イベントやガイドウォークなどもチェックしてみよう。 森の演出家オフィシャルサイト

森林セラピーロード
もえぎの湯
ケーブルカー

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。