さて、渓谷沿いをゆっくりと歩く私たちは、河原に出た。すると土屋さんは、大小の石をランダムな形に積み上げ、石の塔を作り始めた。ストーン・バランシングという遊びだというのはテレビで見たことがあった。
「じゃあ、川内さん。石を12個積み上げてみてください」
「え、12個!?無理ですよ!」
そう言いながらも、とにかくチャンレンジしてみる。なるべく平らな石を探し、ゆっくりと乗せてみる。しかし、3、4個までは簡単なのだが、そのあとは毎回バラバラと崩れてしまう。
「こりゃあ、私には、無理ですね」とあっという間に諦めると、「いや、真剣にやれば絶対にできます。できない人はいません」と彼は言う。
「えっ? 本当にできない人はいないんですか?」
「いません。子どもでもできます」
私はその言葉に鼓舞され、気持ちを石と指先に集中させた。時間をかけて石同士がピタッと吸い付く地点を探していく。すると、不思議と一箇所はグラグラしないポイントが見つかる。ピタリと合うと気持ちがいい。「真剣に」というのがポイントだ。私はさっきまで「どうせできやしない」と、適当にトライしていたのだ。
指先の集中力を切らさずいると、今度は不思議なくらいすっすっと石が積み上がっていくではないか。そして、本当に12の石が重なった。
「わ、本当にできた!」
「いい感じですね!安定してますよ。1、2、3….あれ! 11ですよ。あと、ひとつ!」
ひゃあ、あと、ひとつか。私は、最後にとびきりの小石をつまみあげると、そっと乗っけた。はたして石はそこにとどまった。平たい石ばかりの不恰好な塔だったが、でき上がったのはまちがいない。緊張感から解き放たれて、肩のあたりが軽くなった。
傍には、土屋さん作の不思議な形の塔がたくさんできていた。そのいくつもの石の摩天楼を見ているうちに、あ、いま意識が忙しい日常から離れてたなとはっきりわかった。
未知の細道の旅に出かけよう!
奥多摩(2日間)
予算の目安 2万円~
◎ オススメ! 土屋さんが主催する体験イベントやガイドウォークなどもチェックしてみよう。 森の演出家オフィシャルサイト
※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。
川内 有緒