未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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洋食屋、焼肉屋、寿司屋、居酒屋を巡る 「オムライスの町」で出会った"おむてなし"の心

文= きえフェルナンデス
写真= きえフェルナンデス
未知の細道 No.253 |25 March 2024
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#4本格和食が食べられる焼き肉店のオムライス

最初に向かったのは、宝達志水町今浜にある1979年創業の「焼肉旬彩 牛太郎」。金沢方面から国道249号線を能登方面へ北上すると、左側にオムライスののぼり旗が見えてくる。お店は濃い褐色でモダンな作りだ。店主の西道大作(さいどうだいさく)さん(55)は、「よっ、いらっしゃい!」と元気に出迎えてくれた。

「焼肉旬彩 牛太郎」の店主、西道大作さん

私は早速「石焼きオムライス」を頼んだ。なべちゃんは店主がおすすめする「期間限定!香箱ガ二ランチセット」をオーダー。肉も魚も食べようという魂胆が見え見えである。

あにはからんや、今回取材をするにあたり、オムライスで町おこしをしているとはいうものの、「オムライスだけ注目されてはお店が回らなくなるので、オムライスだけの取材は困る……」との声を数軒のお店からいただいた。どうやら、オムライスは手間がかかるらしい。取材をすることが店の迷惑になっては困る。というわけで、オムライスと一緒に各店がおすすめする品を注文しようと決めていた。

実はこの焼肉旬彩牛太郎は、私が高校1年生の時にアルバイトをしていた焼肉屋である。もうかれこれ26年も前の話だ。

生まれて初めて大トロを食べた場所がここ、牛太郎だった。当時、先代が焼き肉担当、現在の店主で2代目の大作さんは、和食担当でお店を切り盛りしていた。アルバイトの日はまかないが付いた。ある日、大作さんが「これ食べてみな」と、なにやら新鮮そうなマグロらしき刺身を器にぽんとのせてくれた。口に入れた瞬間に溶け、じわあっと広がるうまみに感動したことをいまだに覚えている。

それが大トロだった、ということはあとで知った。

それ以来、肉とお刺身が食べたいなら牛太郎に行けばいいのだと、若き日の私は思ったのだった。

石焼きビビンバ、ミニサラダ、お汁付き1,080円。

牛太郎で提供するオムライスは、「石焼きオムライス」。そのこだわりを尋ねてみた。

「うちは焼肉屋なので、それらしく器は石焼き鍋です。最後までオムライスが熱々の状態で食べられます。ライスに自家製の焼き肉ダレやキムチ、ゼンマイなどを混ぜ込んでビビンバ風にしています。それと、ケチャップはコチュジャン入りです」

辛さはまったくない。ふわふわの黄色い卵の下には、熱々で濃厚なビビンバごはんが待機している。スプーンですくうたび、湯気がふわあっと立ち上る。底にできたお焦げにはタレが染みこんで絶品だった。

県外からこの石焼きオムライスを求めてくる人もいるという。だが、オムライスだけで来るにはもったいない。「焼肉旬彩 牛太郎」という店名ながら、牛太郎では今も和食を出していて、魚介はすべて大作さんが金沢の市場へ足を運び自分の目で見て、厳選した魚のみを提供している。なべちゃんに金箔入りの香箱ガニランチセットを少し分けてもらったが、あまりのおいしさに後ろに倒れそうになった。

香箱ガニランチセット2,200円。ボリュームたっぷり!
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