時代は平成に入り、「観光町おこし」「地域おこし」が盛んになる中で、馬場さんを始めとする「大塩天然炭酸水保存会」メンバーの尽力によって復活した金山の天然炭酸水は、2016年に開かれたG7伊勢志摩サミットの卓上水として採用された。カルシウム含有量が多くしっかりした飲みごたえのものが多いヨーロッパの炭酸水に対し、柔らかで口当たりのよい日本特有の微炭酸水が評判を呼び、時を経てメイドインジャパンのナチュラル・スパークリングウォーターの存在に再びスポットライトがあたったのだ。
私は用意してあった空の500mlペットボトルを炭酸水でいっぱいにした。そしてすぐに「しまった!」と後悔した。
「なぜ2リットルの容器を持ってこなかったのか。ハイボールや焼酎で割ってストーリーズとかに上げて自慢したかったのに!」
気を取り直して味見してみる。馬場さんの言うとおり、微炭酸ならではの優しい口当たりが口の中にいつまでも残る。炭酸水がメジャーになった昨今だけれど、国産メーカーの炭酸水はどれも「強炭酸」を売りにしている。
どちらかというとヨーロッパでよく見かける微炭酸が好みの私としては、この天然水はぴったりの喉ごし。飲み終わってからしばらく時間が経過しても口の中がピリピリしている。人工炭酸水を飲んだ直後だけに感じる特有の辛さが、天然のものになるとずっと残るから不思議だ。
井戸の中から絶え間なく「ポコッ、ポコッ、ポコッ、ポコッ、ポコッ……」と軽妙な音が響いている。団塊ジュニアの私は思わず「ウルトラマンシリーズ」で、どこかの惑星で怪獣が生まれる奇妙なシーンを思い出した。
馬場さんいわく「炭酸水が生まれている音」とのこと。大小様々な泡が水面に湧いては消えている。地表に湧き出る地下水に炭酸ガスが混ざって炭酸水となるため、一日に生産される量はとても少ない。雪解け水による湧き水の多い春には炭酸水の量も増えるが、夏は枯渇することもあり、逆に冬はおいしさが増す、自然の神秘を感じさせる貴重な天然水なのだ。