「ピンクのフラミンゴがいるよ!白いのもいるよ!こんにちわ!」
フラミンゴを見てはしゃぐ小さな子どもたち。
若い夫婦や3世代に渡る家族連れが目に付き、一方で親戚の集まりのようなグループや、年老いた母を連れた女性など、いわき市における年齢分布のサンプル調査をしているような、実に幅広い世代のお客さんが着席している。
子どもたちの元気な声とそれを諌める若い父母、控えめなトーンで近況を報告し合う大人。
無言でカニの殻を剥く中年カップルの横に、ズワイガニの殻を歯で噛み砕く豪快なおばあちゃんがいたり、もうひとつの定番メニューであるビーフステーキをペロリと平らげる元気な高齢者たちもいる。
そんな彼らを包み込むのは、幸福に満ちた空気。
多くの人が特別な日を祝おうと、このレストランにやってくる。そのことを十分心得たスタッフたちは、親戚の方が来て一緒にお祝いするような気持ちでお客さんと接している。
2歳になる女児を連れた夫婦は、年に一度、結婚記念日にここを訪れるそうだ。
いわき生まれの夫がまだ幼かった頃に、両親に連れられてやって来たときに体験した「特別感」を、自らの家族と再び味わうためにやって来る。
「多くのいわき市民にとって『メヒコ』思い入れのある場所だと思います。僕の場合、あえて頻繁には来ないことで、『特別感』を維持しています(笑)」
別のテーブルで食事をしていた若い母親は、「七五三や卒業、入学のような人生の節目は、必ずメヒコで食事します。実は『こういう雰囲気のレストランには必ず動物がいるもの』と最近まで思い込んでいて(笑)」と、とんでもない勘違い話を披露して笑わせてくれた。
しばらくすると、別の席で「ハッピーバースデー!」と声が上がった。
見てみると、かなりお年を召された男性がバースデーケーキのロウソクの火を吹き消している。息子さんやお孫さんに囲まれプレゼントを手渡され、とても嬉しそう。
彼らの話を聞きたくなった私は声をかけたてみたものの、次の瞬間には涙腺が崩壊してしまった。
「亡くなったおばあさんとよくメヒコに来たことを、祖父から聞かされていて。懐かしいんじゃないかと思い、90歳のお祝いに来てみました」
ここには私の想像を遥か上を行く、いわきの人々の記憶が積み重なった場所のようだ。
高級洋食店のパイオニアが外食の多様化とともに変化して、カジュアルなレストランとなった。
けれど人々が特別な思いを寄せる空間として、変わらずにそこにある。
「これからもずっと『メヒコ』のままでいてほしい」。
そんな思いが、このユニークなレストランをこれからもずっと支えてゆくのだとしたら。
私はピーマンの旨味を何度も何度も反芻しながら、奥歯に挟まったカニ肉を掻き出すべく、テーブルの上の爪楊枝入れに手を伸ばした。