お次は、白鳥さんのお気にいりの作品で、タイトルは《京都人力交通案内「アナタの行き先、教えます。」》。
映像に映るのは、ふたりの制服を着た男性(QさんとXLさん)。道に迷っている外国人などにバスの乗り継ぎを教えている。
仕事中かな、と思いきや、どうもそうではないらしい。説明によれば、QさんとXLさんは障害があり、NPO法人「スウィング」に通っている。同時に、バスをこよなく愛し、非常にややこしい京都のバスの路線図をカンペキに把握しているというユニークな人物だ。そこで、ふたりが通うNPO法人「スウィング」は、その驚異的な記憶力を駆使して道に迷っている人を案内してあげよう! と思いついた。
「QさんとXLさんは、路線図が全部頭にはいってるらしいです」(大政さん)
「そりゃあ、すごい!」(白鳥さん)
「QさんとXLさんは、バスの運転手さんみたいな帽子をかぶっていて、迷ってるお客さんを待ってるんです」(大政さん)
「ははは!」(白鳥さん)
「首から下げた札に書いてあるのは『スマホじゃわからないこともある』だって」(マイティ)
「なるほどー、ハハハ!」(一同)
「『いきかたはひとつじゃないぜ!』って書いてあるのもいいよねー。“いきかた”って、“行き方”という意味もあるんだろうけど、“生き方”と言う意味もあるんだろうな」(マイティ)
このやたら親切な道案内は、果たしてボランティアなのか、趣味なのか、アートなのか、もはやその線引きは誰にもわからないけれど、とにかく愉快だ。何が面白いって、既存の境界線を踏み越え、障害者という既成概念をぶっ壊すその姿。
ここにきて、館長の岡部さんの言葉が響いてくる。
「社会には、本当にいろんな生き方や人間のあり方があり、表現の振れ幅があります。美術館はそれを共有できる場所になればいいと思う。それは『障害者への理解』とは関係がなくって、単純にこんなに面白い人がいる、こんなにすごい作品がある、それを知らないのはもったいないよという気持ちで、展示作品を決めています。私たちの美術館のベースには、もちろん障害者の理解というのがあるんですけど、つきつめていくと、もう障害者かどうかというのは関係ないのです」