未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
144

種から育て、編み上げる 手仕事あふれる箒職人の日常

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.144 |23 August 2019
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#7自分の手で道具をつくる、ということ

今後やってみたいことを聞いてみたら、フクシマさんは自分の帽子を差し出した。ホウキモロコシの葉で作った手作りの麦わら帽子だ。

「箒に限らず、手仕事を推奨することがしたいです。『身近な素材で、簡単な道具で、自分の生活道具をつくる』という宮原先生の農閑工芸の考え方は、私の活動の芯にもなっています。売るために作るのではなく、生活に必要なものを自分の手で作って暮らす。その豊かさを説いたものだと私は理解しているんです。学生時代から、カゴや家具や食べ物や、いろんなものを作る経験をしてきました。もちろんプロの職人が作るものよりも見劣りはするんですけど、自分で作ったもので暮らす充実感って何ものにも代えがたい。その素晴らしさは、箒を販売するだけでは伝えきれないと思っています」

ホウキモロコシの麦わら帽子は、見た目以上に手間がかかり、とても売り物にはできないそうだ。それでも、手を動かして自分の生活のために物を作ること、完成したときの喜び、身につけるたびに感じる満足感。そういうものを伝える場を、いつか持ってみたいのだとフクシマさんは言った。

ホウキモロコシの麦わら帽子は、今かぶっているのが2代目。

帽子でも、机でも、梅干しでも。「自分の手で作ってみたいな」と思うものがあっても、どうすればいいかわからず、自分で作るという選択肢を持てない人も多いと思う。手仕事をして暮らしてきたフクシマさんのような人が、現代において伝える場を持つことは、すごく意味があるような気がした。

「あと、このズボン。農作業ですり減った部分にツギハギしてます。技術なんかなくて適当にやってるんですけど、愛着が湧いて命を感じるんです。昔の人って本当に直して使うの繰り返し。それが積み重なって、人の暮らしになっていたんだなと思うと、人間ってすごいんだって思うんです。そういう『人間力』を取り戻したい」

フクシマさんの部屋を見渡すと、箒職人の日常は「手仕事」で溢れている。箒づくりの作業台や、収穫したホウキモロコシを収納する棚はもちろん自作。作業道具は、秋田の箕づくりの職人さんに教わった樹皮のケースに。箒を売り歩くのに使う自転車には、手作り箱を取り付けて。今年は、初めて麦を焙煎するところから麦茶を作った。

ライフワークになっているというツギハギズボン。
  • 秋田のオエダラ箕の職人さんに教えてもらい作ったという樹皮の道具入れ。
  • 晴れの日は手作りの箱を自転車に取り付けてイベントへ。

フクシマさんと一緒にいると「こんなものまで作れるなんて」と驚くけれど、それは私たちみんなが持っている「人間力」なのだ。フクシマさんが作った箒で部屋を掃いてみると、嫌いだった掃除の時間は、自分の生活に考えを巡らせる豊かな時間になりそうだ。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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