今後やってみたいことを聞いてみたら、フクシマさんは自分の帽子を差し出した。ホウキモロコシの葉で作った手作りの麦わら帽子だ。
「箒に限らず、手仕事を推奨することがしたいです。『身近な素材で、簡単な道具で、自分の生活道具をつくる』という宮原先生の農閑工芸の考え方は、私の活動の芯にもなっています。売るために作るのではなく、生活に必要なものを自分の手で作って暮らす。その豊かさを説いたものだと私は理解しているんです。学生時代から、カゴや家具や食べ物や、いろんなものを作る経験をしてきました。もちろんプロの職人が作るものよりも見劣りはするんですけど、自分で作ったもので暮らす充実感って何ものにも代えがたい。その素晴らしさは、箒を販売するだけでは伝えきれないと思っています」
ホウキモロコシの麦わら帽子は、見た目以上に手間がかかり、とても売り物にはできないそうだ。それでも、手を動かして自分の生活のために物を作ること、完成したときの喜び、身につけるたびに感じる満足感。そういうものを伝える場を、いつか持ってみたいのだとフクシマさんは言った。
帽子でも、机でも、梅干しでも。「自分の手で作ってみたいな」と思うものがあっても、どうすればいいかわからず、自分で作るという選択肢を持てない人も多いと思う。手仕事をして暮らしてきたフクシマさんのような人が、現代において伝える場を持つことは、すごく意味があるような気がした。
「あと、このズボン。農作業ですり減った部分にツギハギしてます。技術なんかなくて適当にやってるんですけど、愛着が湧いて命を感じるんです。昔の人って本当に直して使うの繰り返し。それが積み重なって、人の暮らしになっていたんだなと思うと、人間ってすごいんだって思うんです。そういう『人間力』を取り戻したい」
フクシマさんの部屋を見渡すと、箒職人の日常は「手仕事」で溢れている。箒づくりの作業台や、収穫したホウキモロコシを収納する棚はもちろん自作。作業道具は、秋田の箕づくりの職人さんに教わった樹皮のケースに。箒を売り歩くのに使う自転車には、手作り箱を取り付けて。今年は、初めて麦を焙煎するところから麦茶を作った。
フクシマさんと一緒にいると「こんなものまで作れるなんて」と驚くけれど、それは私たちみんなが持っている「人間力」なのだ。フクシマさんが作った箒で部屋を掃いてみると、嫌いだった掃除の時間は、自分の生活に考えを巡らせる豊かな時間になりそうだ。