未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
79

神奈川県鎌倉市

出版不況が叫ばれる昨今、小さくても個性的な出版社が静かなムーブメントが起こしている。たった一人で、または数人で、丁寧にじっくりと本を作る彼らは、“インディペンデント系出版社”などと呼ばれる。そんな個性的な出版社が多数集まる「かまくらブックフェスタ」は、今年で6年目を迎えた。あるわ、あるわ、他では見ないような魅力的な一冊が! 古民家の真ん中で、ひゃあ、と興奮した後は、すっかり軽くなった財布と供に70年後の未来に思いを馳せた。

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.79 |25 November 2016
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
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神奈川県

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#1雨に濡れた古民家

 その日の鎌倉駅は、秋の美しい古都を楽しむために、世界中からやってきた観光客でごったがえしていた。ぎゅうぎゅう詰めの江ノ電に乗り換え、由比ヶ浜の方角に向かう。和田塚駅を降りると観光客は魔法のように消えていて、街は休日らしいゆるゆるとした空気に包まれていた。
 あいにくの小雨だったが、朝からワクワしていた。なにしろ、年に一度の“フェス”に向かっているのだ。フェスと言っても、ロックではありません。その名も「かまくらブックフェスタ」。本の祭典でございます。

 大きな樹木の庭がある古民家が、目指す会場。古民家でブックフェスなんて鎌倉らしいなと思う。縁側で靴を脱ぎ、「お邪魔します」と声をかけた。中では、数人がくつろいだ雰囲気でお客さんを待っていた。午前中はまだ人が少なく、ああ、早く来て良かったと思った。
「本」にまつわるイベントは、今や日本全国で行われているが、「かまくらブックフェスタ」の最大の特徴は、参加する出版社のユニークな布陣だ。ここに集まっているのは、「インディペンデント系」とか「リトルプレス」などと呼ばれる小規模な出版社が中心だ。
 第6回目を迎えるフェスの発起人の上野勇治さん曰く、「ユニークな活動をしている版元ばかりが集まっています」。今年の参加者は全部で十八の出版社や個人である。わりと本屋さんに足を運ぶ方だと自負する私でも、二社を除いて初めて聞く出版社である。

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未知の細道 No.79

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。