未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
73

長野県小布施町

本屋が一軒もない町が、実は本で溢れている!? その正体は、カフェや、個人のお宅、味噌屋さんやバーまで巻き込んだ「まちじゅう図書館」。向かったのは長野県の小布施。そこには、驚きの“迷宮”が待っていた。

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.73 |25 August 2016
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長野県

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#1ここはアルプスか!?

 こじんまりとした駅舎を抜け、観光案内所でもらった地図を広げた。信州の山々の上には入道雲がかかっていたが、頭上には素晴らしい夏の青空が広がっている。今日も暑い一日になりそうだ。
 目の前には、なんの変哲もない田舎の駅前広場があった。おみやげ物屋もタクシーもコンビニもなく、ただ古い建物が行儀よく並ぶだけの静かなロータリー。
 それなのに、なぜだろう? その光景は、ヨーロッパの村にでもきたような錯覚を起こさせた。
 不思議だなあと首をひねりながらロータリーを横切ると、美しい花壇と小さなポストのようなものが目についた。近寄ってみると、「投句箱」とあった。ふと浮かんできた俳句を、ここに投函するのだろうか?
 花壇がきれいだなあ、と思ったその時、ああ、そうか! と気がついた。
 花のおかげだ。街のあちこちに手入れが行き届いた花壇や植え込みがあって、ピンクや黄色の可憐な花が見事に咲きみだれている。
 山と花と木造の建物——。それらが、まるでアルプスのような独特の雰囲気を生み出しているようだ。
 こんな町ならば、きっとすてきな一冊に出会えるにちがいないという予感があった。
 そうそう、今回の旅のテーマは、本なのです。

 とはいえ、この街には実は本屋さんが一軒もない。
 小布施町の現在の人口は約一万人ちょっとで、小学校と中学校がひとつずつ。離島なんかもそうだが、この人口規模では本屋さんは立ち行かない。だから地方では、ここ二十年ほどものすごい勢いで本屋さんが姿を消している。
 しかし、小布施には誰でも本を読んだり、借りたりできる場所がたくさんあるらしいのだ。その名は、「まちじゅう図書館」。要するに、町のカフェや商店を小さな図書館にしてしまおうという面白い試みだ。
 そもそも私は、子どもの頃から本屋とか図書館とか本がたくさん集まる場所が好きでたまらない。小学生の頃は毎日三時間くらい本屋に入り浸り、高校生になると本屋でバイトをし、今も日々個性的な本屋やブックカフェを探してウロウロしている。まちじゅうが図書館なんて、もう行かずにはいられない。
 中でも、最大級の図書スポットが「まちとしょテラソ」。要するに公営の図書館が、最初の目的地だった。

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未知の細道 No.73

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。