未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
63

馬と共に歩んでいきたい

女手ひとつで作られた美しき馬森牧場へ

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.63 |20 March 2016
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#4竹藪のビフォーアフター

「いったいどうやって竹林を切り開くんですか」
「まずはチェーンソーで細かい木や藪を取り払う。大きな木を切り倒して片付けた後、土地を平らにする」
 なんだかイージーなスリーステップのようにも聞こえるが、実際には気が遠くなるような重労働である。竹やぶの中には、無数の藪蚊が飛び回り、イノシシが泥浴びをしていた。
 さっきのスリーステップを延々と繰り返ししつつ、猟銃免許も取得してイノシシとは真っ向対決(ますます、西部開拓劇だ)。しかし、終わりの見えない作業は肉体的にも精神的にもきつかった。腕や肩を痛め、原因不明の頭痛にも悩まされた。しかもイノシシ側は全く諦めない。最近もイノシシと衝突した車が廃車になったそうだ。
 思わず「あの、気持ちが折れる瞬間はなかったですか?」と聞いた。
「折れてるヒマ、ないです。そんなヒマがあったら木を切りたい」という淡々とした口調が決意を感じさせる。
 一方の淳さんは、「俺は、作業は一切しない」と宣言していたので、手伝ってくれない。しかし、それは気にならなかったという。
「それよりも、いつも笑みを絶やさない穏やかな彼がそばにいてくれこと。一緒に腹を抱えて笑いあうこと。そして、一日の終わりに美しい夕日を見ることで活力を得ていたように思います」
 そう彼女が言う通り、ここで見る夕日は格別なのだそうだ。

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未知の細道 No.63

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。