未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
52

「場所」をつくる建築とコーヒー 建築家のおいしい実験


茨城県古河市とその周辺

「コーヒーも好きだけど、一杯のおいしいコーヒーにたどりつくまでの、
そのプロセスの方がもっと好きなんだよね」
茨城県を中心に出回っているという、気鋭の建築家が焙煎する謎のコーヒーを飲みにいくために、
古河市へと出かけた。そこで知った建築家の「場所」をつくるための仕事と、
古河の町と人々を巡るお話。

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子  一部写真提供= さいとうさだむ
未知の細道 No.52 |10 October 2015
  • 名人
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茨城県

圏央道「境古河IC」を下車、古河市へ(約5分)

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#1謎のコーヒー焙煎所を訪ねて

建築家・加藤誠洋さん。クロニクル・コーヒー・ラボの所長でもある。

同じ茨城県内といっても、そこへ行くまでは、やはりちょっとした旅である、と言わねばなるまい。
茨城県古河市。私のホームタウンである水戸市から西におよそ100キロ。関東平野のほぼ中央、茨城県の西端にあり、栃木県や埼玉県に広く接していることから、地理的にも歴史的にも県内よりも県外とのつながりが強い地域である。
そういえば大学で寮の同室だった古河市出身の女の子も、水戸に行ったのは車の免許を取りに行った時だけだよ、と言ってたっけなあ……。
筑波山を横目に、のどかな田園地帯をひたすら車で走りながら、そんなことを思い出す。仕事柄、全国各地を旅する私ではあるが、古河市へ行くことは滅多にない。同じ県内でも、実はよく知らない町、それが古河なのだ。

古河市の豊かに広がる水田地帯と住宅地とが混じり合う一角に、その不思議なコーヒー焙煎所はある。その名も「クロニクル・コーヒー・ラボ」。
そう、その名の通り、それはコーヒー豆の焙煎所というよりは、なんというか……コーヒー焙煎の「ラボ(実験所)」のようであるらしい。
特に店構えもなく、ある建築事務所の一角で焙煎されるという、クロニクル・コーヒー。茨城県内外のいくつかの洒落たレストランやカフェ、あるいはイベントなどで飲むことができるその謎のコーヒーは、雑味のないクリアな味わいと目の醒めるような深いコクが特徴だ。焼き物に詳しい人ならば、よく見ると、それが必ずすてきな作家物のカップで供されていることに気づくかも知れない。

その焙煎所のオーナー、というより「所長」といったほうがぴったりくるその人は、喫茶店のマスターでもなければ、コーヒー豆屋さんでもない。なんと建築家なのだ。それも第一線でバリバリに活躍する気鋭の建築家である。建築家がなぜ、そしてどんなコーヒーを自家焙煎しているのだろうか? そんなことを考えているうちに、ようやく焼き杉の外壁が目を引く建物の前へと、たどり着いた。
その事務所の一角からひらりと現れた建築家、加藤誠洋さんは「遠いところまで、よく来たねえ!」と笑顔で迎え入れてくれたのであった。

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未知の細道 No.52

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。