未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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[ 第100回特別企画 ]街にこぼれる素敵な音を追いかけて

常磐自動車道を行く!〔後編 福島・宮城編〕

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
録音・編集= 白丸たくト
未知の細道 No.100 |25 October 2017
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#11いわき湯本IC 塩屋崎灯台で聞く美空ひばりの歌

 さて、これまでも何度も行ったことのある塩屋崎灯台周辺に、再び行ってみることにした。塩屋崎灯台は、日本の灯台50選にも選ばれ、映画のロケ地になったこともあるので、知っている人も多いだろう。
 塩屋崎灯台を挟んで豊間海岸と薄磯海岸があるのだが、いわき湯本ICを降りて車を走らせると、灯台の手前に、まず豊間海岸が見えてきた。幼い頃、海水浴に訪れたこともある豊間海岸は、津波で大きな被害があり、たくさんの人が亡くなったところだ。景色はすっかり変わり、防潮堤が建設され、まだまだ海の近くでは大規模な工事がなされていた。

  • 工事中の豊間海岸の様子

 さらに車を進め、灯台のふもとの薄磯海岸で車を降りた。きれいな砂浜とともに、こちらにも真新しくて高い防潮堤が、北へ北へと伸びている。防潮堤の上から太平洋を眺めていると、下から小さな子供たちの声がする。砂浜に降りて遊んでいる家族がいたのであった。
 実は私は、今年の6月にもここへ来たばかりだった。震災後に初めて薄磯海岸で海水浴が再開されるということで、いわきの知人に案内されて、現在の海岸がどんなふうになったのかを見にきたことがあったのだ。その時に初めて、海岸のそばに美空ひばりの像があることを知人から教えてもらった。像の解説を読むと、晩年に出した曲のイメージに塩屋崎が選ばれており、その関係で建てられたものらしい。像に近寄るとその曲が自動的に聞こえてくるので、ちょっとびっくりしたのだった。
 私は美空ひばりの歌が好きなので、それをもう一度聴こうと思って、今回また、ここに立ち寄ったというわけだ。しかし、どういうわけか今日は像の前に立っても歌が流れてこない。説明をよく読んでみると、太陽光電池で動く機械なので、曇りの天気が続くと音が流れないこともある、と但し書きがしてある。
 何度試しても歌わないひばりの像と、今にも雨が降り出しそうな夕方の薄磯海岸を見渡して、なるほどなあ、と思った。残念だけど天気ばかりは仕方ない。帽子をかぶってステッキを持っているひばりちゃんの像は、おそらく少女時代の姿なんだろう。静かな海辺にひとりできりでいるのは、ちょっとかわいそうな気もする。
 また歌声を聞きに来ればいいか、と思って、暗くなった薄磯海岸を出発した。


未知の細道 No.100

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

常磐自動車道を南北縦断!(埼玉・千葉・茨城編) 2泊3日

予算の目安2万5千円〜

1日目
三郷市 #2 市立図書館へ。市内に7つある図書館と図書室では、さまざまな読書イベントを開催している。
流山市 #3 みりんの本場、流山本町と流山駅周辺を散策。
2日目
土浦市 #5 土浦市内の亀城公園や霞ヶ浦を散策。
小美玉市 #6 茨城空港で旅客機の発着を見学。
3日目
水戸市 #7 大塚池と千波湖でバードウォッチング。
北茨城市 #8 五浦海岸を散策。周辺には日帰り温泉などもたくさん。

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。