未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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年間1万人が訪れる美深町の廃線 トロッコに乗って風の歌を聴く

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.190 |28 July 2021
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#6気分はインディー・ジョーンズ

廃線をトロッコのような乗り物で走ることができるスポットはいくつかあるものの、時速20キロ出るエンジン付きのトロッコで、往復10キロも運転できる場所はほかにない。しかも、トロッコ王国の成り立ちを知り、「日本一の赤字線」を走ると思うと、鉄道ファンでなくともテンションが上がる。

現在使用されているトロッコ。NPOメンバーによる自作。見るからにハイテンションの筆者。

線路は1本しかないため、5キロほど行った地点でグルっと回転して戻ってくる仕組みになっている。先に進むトロッコと戻ってくるトロッコがすれ違うことができないので、普段は1時間おきに、一斉に発車して同時に戻ってくるのだが、僕が取材に行った日は、平日の午前中だったこともあり、お客さんはゼロ。ということで、ひとりでトロッコに乗り、いざ出発!

物は試しと、まずは思いっきりアクセルを踏んでみた。その途端、僕は「おおおおおお!」と声を上げていた。岩崎さんは「時速20キロ程度しか」と言っていたけど、いやいや、フルオープンに近い乗り物で20キロを出すと、風や景色の流れをダイレクトに感じるからか、意外なほどにスピーディー! 

もしかすると、最初は「怖い」と感じる方もいるかもしれない。でも、すぐにそのスピードに慣れてくるし、線路のつなぎめを通過する際のガタン! ゴトン! という衝撃が思いのほか強くてそのリズムも心地よくなってくるから、ぜひアクセルのベタ踏みを試してみてほしい。

  • スタートから間もない地点。
  • 立ち並ぶ白樺が新緑のトンネルを作る。

スタート地点から少しの間は開けた場所を進み、しばらくすると木立の間を抜けるコースに入ってくる。みずみずしい新緑がトンネルのようになっていて、そのなかをビューッンと走り抜けると、これがもう本当に爽快で、刺激の強い目薬を差した30年前の織田裕二のように、僕は「キターーーーッ!」と叫んでいた。

鉄橋を渡る時はスピードを落とす。

ヒャッヒャ言いながらトロッコを進めていくと、今度は川の上を走る鉄橋が! ここ、線路の脇に柵がないから、安定した北の大地から急に狭くて不安定なところを走っている感覚になって、スリルがある。こんなところを実際に電車が走っていたと考えたら、心臓が少しキュッとなりませんか?

しかも、鉄橋が定期的に表れるから、ヒャッホー&キュッが交互に訪れて、平地にいるのにジェットコースター感覚。これで、誰かに追われていると勝手に妄想を膨らませれば、気分はもうインディー・ジョーンズの冒険だ!

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。