蔵王温泉には入れなかったけれど、その夜、私たちは大満足でホテルに辿り着いた。その日宿泊したのは、市街地の駅前にあるビジネスホテル。小さい部屋にシングルベッドが2つ押し込まれた典型的な部屋を見て「昨日の宿とは、雲泥の差だな」と笑う。
夢のような「オトナの贅沢旅行」は、今は一泊で精一杯。そんな現実を思い知らされた私たちは前日までの宿を思い出し、「昨日はよかったね……」としょんぼり小さなベッドに入ったか。いやいや、私たちのテンションは最高潮だった。
コンビニで買ってきていた、東北限定のどん兵衛「芋煮うどん味」を食べる。飛び跳ねても怒られないベッドの上でジャンプして、「なんて楽しい旅だろう」を笑い合った。何かおもしろいものがあるわけでもないビジネスホテルの一室で、私たちは夜遅くまではしゃいでいた。
結局、「オトナな旅をしよう」などと言っているうちは、まだ子どもなのだ。私たちは一生懸命に背伸びをしたけれど、やっぱりビジネスホテルも気楽で好きだった。トイレに立ち、ユニットバスのシャワーを覗くと、信じられない狭さ。豪華な旅もいいけれど、貧乏旅行に「おかえり」と言われたようだった。
ふたり旅はやっぱり楽しい。“どこに行くか”は、究極的には関係ない。銀山温泉のかけ流しの露天風呂でも、ビジネスホテルのシャワーでも。私たちはどこだって同じように楽しみはしゃぐことができるのだ。
「次の旅行は、どこにする?」「うーん、どこもいいなあ」
本屋にずらりと並ぶガイドブックを見ながら、相談する私たち。どこに行ったって楽しい旅になるのがわかるから、なかなか行き先が決められない。さて、次はどこへ行こうか。仕事や住む場所が変わったり、家族が増えたり。高校生の頃と環境は大きく変わっても、私たちはこれからもずっとふたり旅を続けていくだろう。
※未知の細道では、新型コロナウイルスの影響が収まるまで、ライター陣の過去の旅をつづるエッセイを掲載いたします。
未知の細道の旅に出かけよう!
蛙の大合唱を聴きながら・・・山形の湯の旅
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