それまで恥ずかしながら知らなかったのだが、南相馬といえばとにもかくにも「相馬野馬追(そうまのまおい)」だそうで、創刊号のテーマは私が編集者として仲間入りする前にはもう「馬」と決まっていた。
「馬がすごく身近なんですよ。普通の家でも飼っています」と言われて半信半疑だったが、南相馬市内を車で走っていると人家の側に放牧場があって、悠然と走っている馬が見られるのだ。動物、特に大きい哺乳類好きとしてはたまらない!
ちなみに、50~60年前までは、南相馬に限らず多くの農村で馬は飼われていたが、トラクターなどの大型機械が導入されるにつれ、馬はお役御免になっていったそうだ。しかしここでは、1000年も続くといわれる野馬追のためにも馬が必要。かくして、馬と暮らす風習が残っている。
さて、そこここで目にする馬にキュンキュンしているうちに『ミナミソウマガジン』の表紙撮影へ。年2回の発行を目指して創刊される雑誌なので、「集めたくなる表紙にしよう」というアートディレクション担当のニシヤマさんの発案で、表紙は馬のどアップということになっていたのだ。実は南相馬では、競馬を引退した馬がたくさん余生を送っている。なかでも一番の有名馬といってもいい「ノーリーズン」に市の担当Aさんがアポイントを取り付けていた。
表紙撮影、しかも創刊号ということで気合が入っていて、ロケ地は海岸。実際、野馬追が近づくとこの砂地で練習をするそうだが、馬運車に乗せて馬を運ぶのはなかなか大掛かり。近くで見ると馬は大きくて、その気高い雰囲気に気圧される。
のしのし歩いて行くノーリーズンに、カメラマンの鈴木宇宙さんが必死について行く。さらに市の広報誌の担当カメラマンもそれにくらいつく、という様子で気迫がすごい。途中足を取られながらもだんだん馬との呼吸もあってきて、とても素敵な写真が撮れた。「昔に比べてずいぶん穏やかになったよ」とノーリーズンについて話す馬主の加藤さん。G1(競馬の最高峰のレース)を制したこともある馬の気性は、かつてとても荒かったらしい。いまではぴたっと加藤さんに寄り添いつぶらな瞳をうるうるさせている。