この取り組みは、競走馬のサラブレッドとは異なる、古来から人間と生活を共にしてきた農耕馬の種の保護にもつながっている。近代に入り、働く馬としての需要が少なくなるにつれて、絶滅してしまう在来種も出てきた。そのひとつが、岩手県の在来馬、南部馬だ。
一度途絶えてしまった種は、もう復活させることはできない。そこで、安比高原ふるさと倶楽部では、安比高原に生えるさまざまな草を食べること自体を馬の仕事にして、在来種を守ろうとしている。今年の放牧は8頭で始まり、僕が取材に訪れた時にいたのは、北海道の道産子(北海道和種)3頭と長野の木曽馬。そして、その馬の管理をしているのが阿部さんだ。
馬たちは阿部さんを完全に信頼していて、呼びかければ阿部さんのもとに戻ってくる。僕も柵のなかに入れてもらった。馬たちはこの広々とした草原で、日々心地よく過ごしているのだろう。初対面の僕が身体を触ったり、撫でたりしてもリラックスした様子。今年5月に生まれたばかりの子馬と自撮りをしたら、ギュッと顔を寄せてくれた。サービス精神も旺盛!
阿部さんは、安比高原がある八幡平市の一軒家で、2歳の娘と犬1匹、猫2匹、ニワトリ2羽と暮らしている。安比高原での放し飼いが終わる冬になると、ここに馬たちが加わる。冬の間、馬たちが生活するのは、農業用のビニールハウスを改造した“馬ハウス”。
庭には手作りの円形馬場もあるし、小さな畑で野菜も育てている。阿部さんの家は町と山の間の里山にあり、幹線道路も近いのでそれほど不便な場所ではないけど、そのたたずまいは「大草原の小さな家」を思わせた。
小さい頃から動物が好きで、ムツゴロウ王国で働きたいと願っていた僕が、かつて夢見たような暮らしをしている女性がいる。「ここは阿部王国ですね」というと、阿部さんはフフッと笑った。僕は、阿部さんと雑談していた時に聞いた言葉を思い出した。
「ここは、初めてずっと住んでいたいと思えた場所なんです。それまではいろんなところに行きたいと思っていたけど、今は、どこかに出かけても、早く八幡平市に帰りたいなと思うようになりました」
未知の細道の旅に出かけよう!
馬駆ける草原から桃源郷の森へ 安比高原で馬と暮らし、生きる
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