未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
135

宮城県仙台市

仙台が音楽の街になっている。「学都仙台」ならぬ「楽都仙台」をスローガンに掲げ、街を上げて音楽イベントを開催しているのだ。その仙台にある、東北最大とも言われる飲み屋街、国分町には音楽に特化した酒場が点在している。音楽の街で、どんな音楽好きに出会えるのか。音楽酒場をハシゴしに、仙台へと向かった。

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.135 |10 April 2019
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
宮城県仙台市

最寄りのICから【E4】東北自動車道「仙台宮城IC」を下車

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#1吹奏楽ファンが飲み交わす不思議な酒場

「こちら、サックスのカクテルです」

管楽器のサックスのように輝く黄金色かと予想していたカクテルは、少し曇った赤色。「甘い音色も、渋い音も出せるサックス」をイメージして作られたこのカクテルは、カシスの甘みと赤ワインの渋みを感じる不思議な味だ。楽器の特性まで知り尽くしたマスターならではの楽器カクテルは、「フリューゲルホルン」や「ストリングベース」、「指揮者」まであり全部で15種類。

「サックス」のカクテル(左)と金管楽器「フリューゲルホルン」のカクテル(右)

ここは全国でも珍しい吹奏楽酒場、その名も「酔奏楽部 宝島。」。吹奏楽経験者であれば一度は演奏したことがあるだろうポップスの定番曲『宝島』から名付けられ、店内には壁一面にポスターやプロ奏者のサイン色紙が貼られた、吹奏楽ファンにはたまらない酒場だ。

壁には演奏会のポスターやプロ奏者のサインだらけだ

何を隠そう、私も中学・高校の6年間を吹奏楽部に捧げた身。実は今回の取材のために、押入れで埃をかぶっていたかつての相棒、テナーサックスを引っ張り出してきた。高校時代、いつも一緒だったテナーサックスは、久しぶりに背負ってみると思い出よりもずっと重く感じる。

「お客さんも吹奏楽経験者ばかりで、酔っ払って吹き始める人もいますよ。楽器にとってはあまり良くないですけどね」

マスターの渡部人至さんは小さい頃から仙台で育ち、自身も40年以上サックスを演奏している大の吹奏楽好き。実家の大衆食堂をたたむタイミングで「好きなことをしよう!」と、2010年に吹奏楽に特化した「酔奏楽部 宝島。」をオープンした。

吹奏楽と共に生きてきた、という渡部さんの周りの吹奏楽関係者が集まり、その人たちがまた別の吹奏楽仲間を連れてくる。そうやって口コミやSNSなどで評判が広まった。演奏会後の打ち上げや、吹奏楽部の同窓会などに利用されることも多い。最近では、インターネットで知った吹奏楽ファンが県外から訪れることも増えたそうだ。私の高校時代の顧問までもが「宝島。」を訪れていたのには、正直驚いた。

「演奏会の映像ありますよ。見ますか?」

お客さんにもらったものばかりだという数多くのDVDのなかから、なんと私が高校時代に出演した演奏会の映像が出てきた。これもお客さんから借りているものだという。懐かしさと恥ずかしさで変な汗をかきながら、次の楽器カクテルをオーダーする。

お客さんやプロ奏者が持ってきてくれるという吹奏楽のDVDやCDが山積み

映像を見ながら、楽器や曲、演奏会のことなど、渡部さんと吹奏楽談義に花を咲かせた。吹奏楽から離れて数年、こんなに吹奏楽について話したのは久しぶりだった。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。