未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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おれを鍋にまぜてくれないかい?

“鍋の日”に起きた南部町の奇跡

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.57 |20 December 2015 この記事をはじめから読む

#7家族団らんに紛れ込む

僕を鍋にまぜてくれた木村さん一家。みなさんフレンドリーで、最高のホスピタリティでもてなしてくれた

 木村家はリンゴ、梨をメインにさくらんぼ、プラム、桃などを育てている果物農家さん。農家民泊のメンバーでもあり、これまで10ヵ国以上の観光客が宿泊しているという。
 立派な一軒家の木村家に到着すると、敦子さんの旦那さんの律行(ただゆき)さん、長女の綾子さん、次女の知代さん、そして猫二匹が迎えてくれた。長男の理久(ただひさ)さんも遅れて合流。僕のような珍客を歓待してくれる一家だけあって、やっぱりとてもオープンでフレンドリーだった。
 テーブルの上には、鍋とともにお寿司があって、内心「これは?」と思っていたら、綾子さんが「今日は“いい夫婦の日”だから、みんなでお祝いしようと思って、お寿司を買ってきたんです」とにこやかに教えてくれた。……確かに11月22日は、世の中的には鍋の日というより、いい夫婦の日だろう! なんという日に来てしまったのか! 僕は自分の浅はかさに呆れ、「家族団らんの日にすいません!!!」と謝ったら、「いいの、いいの、気にしないで! さあさあ、冷めないうちに食べましょう! 美味しいよ!」と敦子さん。
 寄せ鍋が滲んで見えたのは湯気のせいか、それとも……。


イカの水揚げ日本一の隣町・八戸でとれたイカが入っている木村家の寄せ鍋

 木村家、そして南部町の尋常じゃないホスピタリティに胸を熱くしつつ、寄せ鍋をつつく。具材は白菜、ネギ、えのき、マイタケ、豆腐、イカ、笹かま。敦子さんが塩と酒と出汁で味付けしたさっぱり味だ。南部町の隣の八戸は、イカの水揚げ日本一。だから、鍋にもイカ! これがまた柔らかく煮られていて、だし汁と絡んで旨いのなんの! 笹かまも鍋では食べたことがなかったけど、肉厚でボリュームたっぷりで、これもまた旨し!

 ホクホクしながら食べていたら、敦子さんが今度は「ひっつみ鍋」を出してくれた。ひっつみは青森南部の郷土料理で、練った小麦粉をひきちぎって入れることを“ひっつみ”と表現するそうだ。木村家のひっつみ鍋には、たくさんのネギとひっつみ、そしてサバの缶詰のサバが入っている。このサバ缶、旦那さんの律行さんが知人がもらったという八戸産の最高級品で、なんと一缶700円以上! このサバ、たんまりと脂がのっていて、鍋に旨みがじゅわーっと染み出ている。その旨みを十分に吸ったひっつみときたら! 
 僕は、「旨いっすね!」「やばいっすね!」と連発しながら、木村家のなべを堪能した。気づけば、冷ます意味でのフーフーに加えて、食べ過ぎてフーフーしていた。


南部町の郷土料理「ひっつみ鍋」。サバの旨みと絡まって絶品!!


未知の細道 No.57

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

南部町(2日間)

予算の目安 2万円~

最寄りのICから八戸自動車道「南郷IC」を下車
1日目
新幹線で八戸へ。駅ビルに入っている食事処が美味! レンタカーで南部町へ。
こだわりのカフェ「ケクー・カフェ」で休憩したら、屋内スケートリンク「ふくちアイスアリーナ」でアイススケート!
食事は、郷土料理「ひっつみ鍋」、「せんべい汁」がおススメ!
2日目
農産物の直売所を巡る。激安のうえ、見たこともないような農産物あるのでテンションが上がる。
お土産には食用菊をぜひ!
暖かい季節には、オートキャンプ場もあるアスレチック施設「名川チェリリン村」へGO!

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。