未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
89

栃木県日光市

経営不振で休業していた栃木県日光の「中三依温泉 男鹿の湯」の再建に名乗りを上げたのは、無類の温泉好きの女の子だった。昨年4月の再オープンから1年、若女将として“奮湯”する温泉ガールのいま――

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.89 |25 April 2017
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栃木県日光市

最寄りのICから東北自動車道「西那須野塩原IC」を下車

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#1ひと気のない温泉地

 浅草から、東武スカイツリーラインに揺られて約3時間。4月某日、僕は栃木県日光市のはずれにある中三依温泉(なかみよりおんせん)駅で、ホームに降りた。
う~ん、見事なぐらいになにもない。

 温泉と名の付く駅で、ここまでなにもない駅も珍しいのではないか。駅は無人で、オープンしているお店もなく、駅前のロータリーに人の気配がない。お祭りかなにかで使ったのであろうやぐらが物悲しい。まだ冬の気配が色濃く雪も残る山肌には、色あせたスキー場の看板が転がっていた。時が止まったような町だ。

だ、だ、大丈夫か?

若干の不安を抱きながら、僕はひとり、駅前の看板の案内に従って歩みを進めた。駅から誰とも、車ともすれ違わないで2、3分歩くと、都会的で洗練された鹿のデザインの懸垂幕(けんすいまく)が目に入る。

男鹿の湯のシンボルマークは、水品さんの友人によるデザイン

 ひなびた地方の町で異彩を放つこの施設こそ、今回の目的地、「中三依温泉 男鹿(おじか)の湯」だ。扉を開けると、若い女性がお客さんの対応中だった。一見、学生さんにも見えるその女性は、27歳にして男鹿の湯を経営する水品沙紀さんだった。

 水品さんのことを知ったのは、半年ほど前。自宅で新聞を読んでいたら、客足の減少で2014年7月から休業していた男鹿の湯の経営を引き継ぎ、再建している女性がいるという記事が載っていた。その記事に書かれていた水品さんの夢が、妙に響いた。

「26歳までに自分の風呂を持ちたい」

 26を「ふろ」と読んで「風呂」にかけたギャグである。日本広しといえども、同じ夢を持っている女の子はいないだろう。しかも実現したのだから、すごい! ということで、再オープンから1周年となる4月、水品さんの話を聞きたくて男鹿の湯を訪ねた。

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未知の細道 No.89

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。