栃木県日光市
経営不振で休業していた栃木県日光の「中三依温泉 男鹿の湯」の再建に名乗りを上げたのは、無類の温泉好きの女の子だった。昨年4月の再オープンから1年、若女将として“奮湯”する温泉ガールのいま――
最寄りのICから東北自動車道「西那須野塩原IC」を下車
最寄りのICから東北自動車道「西那須野塩原IC」を下車
浅草から、東武スカイツリーラインに揺られて約3時間。4月某日、僕は栃木県日光市のはずれにある中三依温泉(なかみよりおんせん)駅で、ホームに降りた。
う~ん、見事なぐらいになにもない。
温泉と名の付く駅で、ここまでなにもない駅も珍しいのではないか。駅は無人で、オープンしているお店もなく、駅前のロータリーに人の気配がない。お祭りかなにかで使ったのであろうやぐらが物悲しい。まだ冬の気配が色濃く雪も残る山肌には、色あせたスキー場の看板が転がっていた。時が止まったような町だ。
だ、だ、大丈夫か?
若干の不安を抱きながら、僕はひとり、駅前の看板の案内に従って歩みを進めた。駅から誰とも、車ともすれ違わないで2、3分歩くと、都会的で洗練された鹿のデザインの懸垂幕(けんすいまく)が目に入る。
ひなびた地方の町で異彩を放つこの施設こそ、今回の目的地、「中三依温泉 男鹿(おじか)の湯」だ。扉を開けると、若い女性がお客さんの対応中だった。一見、学生さんにも見えるその女性は、27歳にして男鹿の湯を経営する水品沙紀さんだった。
水品さんのことを知ったのは、半年ほど前。自宅で新聞を読んでいたら、客足の減少で2014年7月から休業していた男鹿の湯の経営を引き継ぎ、再建している女性がいるという記事が載っていた。その記事に書かれていた水品さんの夢が、妙に響いた。
「26歳までに自分の風呂を持ちたい」
26を「ふろ」と読んで「風呂」にかけたギャグである。日本広しといえども、同じ夢を持っている女の子はいないだろう。しかも実現したのだから、すごい! ということで、再オープンから1周年となる4月、水品さんの話を聞きたくて男鹿の湯を訪ねた。
川内イオ