未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
53

自分のお店を持ちたいあなたに。 個性100%の“小”店街をめぐる旅

文= 志賀章人
写真= 志賀章人
未知の細道 No.53 |20 October 2015
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#6日本酒の味が変わる魔法の「スズ」

錫(スズ)の器で、お酒を飲んだことはありますか?

日本酒も、ワインも、水さえも。器による味の違いはすぐに分かりました。 一言で言うなら“まろやか”。アルミやステレンレスの器のような“鉄の味”が一切しないので、甘さとやわらかさが引き立つのです。熱伝導率も高いので、器に注いだ瞬間にぬるくなったり冷めたりしない。熱燗はアツアツのまま、冷たいビールはキンキンのまま飲むことができます。ほかにも、割れない、錆びない、手入れもいらない。思わず手で転がしたくなるような心地よい重みにも吸い寄せられるような不思議な魅力があります。


コップやお皿から、醤油差しまで。生活に溶け込む錫食器と出会える場所が「原風舎」。金属造形作家の角居康宏さんのアトリエです。表札の前に立つと体が硬くなってしまうような重厚感がありますが、出迎えてくれる角居さんのやわらかい声を聞くと安心するはず。そんな角居さんのお話にもまた吸い寄せられるような魅力があるのです。

「僕にとって金属は“美術”の世界だったんです。自分の作りたい物を作れば、誰とも共有できなくていいっていう感じの。美術作品も作り続けているけど、共有できないのって、やっぱりちょっと寂しいんですよね。僕は、共有できる物作りというのは、使える物を作るということだと思うんです。たとえば、錫の器で飲むとおいしくなるね、って喜んでもらえたりする。金属の器ってものすごく少ないので、そうやって、僕が好きな金属の良さを知ってもらいたい。そう思って普段使いできる物を作りはじめたんです」

工房も気さくに案内してくれる角居さん。僕が「これはなんですか?」と聞くたびに、様々な物を引っ張り出してきて、その成り立ちから丁寧に教えてくれます。

専用の鍋で錫を溶かして、
型に流し入れると板ができる。
ローラーで伸ばして薄くしたら、
型に合わせて切って、
叩いて削って形や模様を作っていく。

金槌や型などの工具もすべて角居さんの手作り。そこまでやる金属造形作家は角居さんだけではないでしょうか。どうして金属で生きる道を選んだのか、そのキッカケを聞いてみると。

「ライターで見るようなオレンジ色の火、あるでしょ? もっと温度を高くするとガスコンロの青い火になって、さらに高くするとレモンイエローの火になって、金属が溶けるほどの温度になると、不透明な白い炎が出るんです。それがもう真っ白で、ものすごく綺麗で、ものすごく神々しくて。その“火”に惹かれて金属の世界に入ったんです」


聞けば聞くほど、引き込まれる角居さんのお話。続きは、ぜひ本人に聞きに行ってみてください。錫の器だけでなく、前衛的な美術作品でも年に20回を超える展示会を行っている巨匠。その、人としての器にこそ驚かされることでしょう。

原風舎を後にして、角居さんが魅せられたという炎を想像しながら歩いていると、通りからピザ釜の炎と向き合う職人の姿が見えました。


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未知の細道 No.53

ライター 志賀章人(しがあきひと)

「え?」が「お!」になるのがコピーです。
コピーライターとして、核を書くことで、あなたの言葉にならない想いを言葉にします。
京都→香川→大阪→横浜で育ち、大学時代にバックパッカーとしてユーラシア大陸を横断。その後、「TRAVERINGプロジェクト」を立ち上げ、「手ぶらでインド」「スゴイ!が日常!小笠原」など旅を通して見つけたモノゴトを発信中。次なる旅は、夫婦で世界一周!シェアハウス暦8年の経験から、子育てをシェアする未来の暮らしも模索中。
伝えたいことを、伝えたいひとに、伝えられるようになる。そのために、仕事のコピーと、私事の旅を、今日も言葉にし続ける。
「新聞広告クリエーティブコンテスト」「宣伝会議賞」「販促会議賞」など受賞・ファイナリスト多数。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。